ハライドペロブスカイト太陽電池技術を使い、水から水素をつくる効率を高める

Image credit: Professor Sanghan Lee from Gwangju Institute of Science and Technology, Korea

韓国光州科学技術院を中心とする共同研究チームが、有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池による水の電気分解に向けて、分解効率を高める電極構造を考案した。陽極内部で発生する光生成電荷キャリアの再結合による損失を抑制し、電気分解を律速する酸素発生反応の触媒効果を高める陽極構造を設計したものである。従来にない光電変換効率12.79%を達成し、太陽エネルギーを利用して環境に優しい水素を大規模製造することを可能にすると期待している。研究成果が、2023年6月17日に『Advanced Energy Materials』誌に公開されている。

現在、水素は、経済性に優れている方法として主に天然ガスから製造されているが、副産物として二酸化炭素などの温室効果ガスが発生するため、完全に持続可能だとは言えず、より環境に優しい水素製造方法が求められている。太陽エネルギーを利用した光電気化学(PEC:PhotoElectroChemical)による水の電気分解は有望な手法の一つだが、PECによる水の電気分解反応全体を律速する酸素発生反応(OER:Oxygen Evolution Reaction)に対して触媒効果の大きい効率的な光電陽極が実現していないため、広汎な活用が進んでないのが現状だ。

一方、2009年に日本の宮坂力博士によって開発されたハライドペロブスカイト(OHP:Organometal Halide Perovskite)半導体は、安価な溶液法で作製できる半導体であるとともに非常に高い光電変換効率を持ち、次世代の太陽電池材料として高い注目を集め世界中で研究開発が進められている。OHPをPECにおける電極として用いる研究も進んでいるが、OHPベースの光電陽極においてもOERが遅く電気分解速度が低いという問題があり、更にOHPベースの陽極内部においては光生成電荷キャリアの再結合による損失があるため、水の電気分解効率を低下させるという問題もある。

共同研究チームは、これらの問題を克服する高効率のOHPベース光電陽極を3段階で実現することに成功した。最初に、OERの触媒効果を持つFeドープNi3S2をNi基板上に、水熱合成および化学変換によって合成した。別途、OHPをスピンコーティングで作成するとともに、グリシジルトリメチルアンモニウム・クロリド(GTMACl)層が加えられたSnO2電気伝導層(ETL)を積層した。その後、これらを組み合わせて、Ni3S2/Niフォイル/OHPの光電陽極を構築した。

その結果、GTMACl層がOHPとETLの界面における欠陥を不動態化し、好ましくない電荷キャリア再結合を効果的に抑制するとともに、OHP電池における太陽光吸収能力を増進することがわかった。さらにFeドープNi3S2の高い触媒効果が、陽極におけるOERの反応速度を高めることを確認した。最終的に、開発された光電陽極は、光から電流への変換効率として従来にない12.79%を実現した。

「OHPベース光電陽極の合理的な設計が実現できれば、10年以内に太陽エネルギーを用いて環境に優しい水素を大規模に製造する実用プロセスが実現し、水素経済とカーボンニュートラルの促進に貢献できる」と、研究チームは期待している。

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