東北大学は2019年12月9日、SRAMを代替可能な高耐熱性とデータ保持特性を持つ、高速書き換えスピン軌道トルク素子(SOT)の開発と動作実証に、世界で初めて成功したと発表した。
揮発性の半導体メモリーを用いる集積回路では、トランジスタの微細化に伴い、待機電力の増大が問題になってきている。これを解決する技術として、電子の電気的特性と磁気的特性を活用したスピントロニクス技術を使った不揮発性メモリーが注目を集めている。
スピントロニクスを用いた磁気トンネル接合(MTJ)素子を使ったSTT-MRAMが、混載フラッシュの代替用途として研究が進められ、すでに半導体製造企業から製品出荷が予定されている。
さらにその後、スタティックランダムアクセスメモリー(SRAM)の代替を目指し、SRAM代替用途に耐えうる高速動作が可能なMTJを用いた新しい磁気メモリーとして、SOTを用いたSOT-MRAMの研究開発が進められてきた。
しかしSOT-MRAMの本格的な応用のためには、半導体製造の配線工程で必要な400℃以上の高耐熱性を有することや、期待通りの高速性能を発揮できることをCMOSウェハ上で試作したSOT素子で実証する必要があった。さらに、実際にCMOSトランジスタと共にSOT素子を組み込んだ試作品等でメモリーセルの性能を実証する必要や、10年のデータ保持を確保するための十分な熱安定性を達成する必要もあった。
今回の研究では、これまで東北大が開発してきた300mmSiウェハプロセス装置を用いた集積プロセス技術を基盤として、SOT-MRAM作製に必要な集積化技術を開発。CMOS基板上に作製した400℃熱処理耐性を持つSOT素子で、10年のデータ保持が可能な高熱安定性と無磁場で0.35ナノ秒の高速動作を実証。さらに実際にトランジスタと混載したSOT素子の動作実証にも成功した。
今回の研究で用いたSOT-MRAMは3端子型のメモリーセル構造を有し、書き込みと読み出しで電流経路が異なる。これにより、大きな動作マージンが得られ、超高速動作が可能になるという。
今回の研究成果により、低消費電力で高性能なSOT素子を用いたMRAMの実用化が現実的になったという。