失明や弱視から視力を取り戻す——ブタのコラーゲン由来の人工角膜を開発

photo by Thor Balkhed

スウェーデンのリンショーピング大学を中心とする研究チームは、ブタの皮膚由来のコラーゲンを材料として、人間の角膜に似た体内埋め込み型材料(人工角膜)を開発した。また新たに開発した低侵襲性の手術方法を用いて角膜疾患のある患者に人工角膜を埋め込み、視力が回復することを確認した。研究成果は『Nature Biotechnology』誌に2022年8月11日付で公開されている。

角膜の損傷や病気が原因で失明する人は、世界で1270万人に上ると推定されている。ドナーから提供された角膜の移植により治療は可能だが、移植を受けられる患者は70人に1人だ。さらに、角膜移植が必要な患者の多くは所得水準の低い途上国の住人であり、移植手術へのアクセスが困難だ。

研究チームが開発した人工角膜の原料は、ヒト用に高精度に精製されたブタの皮膚由来のコラーゲンだ。ブタの皮膚は食品産業の副産物であるため入手が容易で経済的にも優れている。コラーゲンはそのままでは柔らかく劣化しやすいため、化学的、光化学的に二重架橋を施し、透明で移植可能な生体材料を作製した。ドナー角膜は2週間以内に使用しなければならないのに対し、開発した人工角膜は最大2年間保存することが可能だ。

また研究チームは、より多くの病院で人工角膜の移植手術ができるように、角膜が薄くなり失明に至る危険性がある円錐角膜という疾患に対する低侵襲な治療法を開発した。現在、進行した円錐角膜の治療は、手術で患者の角膜を取り除いた後、ドナー角膜を移植して縫合する必要がある。

これに対して新しい治療法では、患者の角膜を取り除く必要がなく、小さく切開して既存の角膜に人工角膜を挿入するだけだ。また縫合の必要もない。

次にこの治療方法について、角膜疾患による失明や弱視の患者が多い一方で角膜移植が進んでいないイランとインドで臨床試験を実施した。失明または失明寸前の円錐角膜患者20人が人工角膜の移植手術を受けたところ、術後の合併症もなく、8週間の免疫抑制点眼剤の投与で拒絶反応を防ぐことができた。従来の角膜移植では、免疫抑制剤を数年間飲み続けなければならない。

試験の主目的は安全性の確認だったが、驚くことに人工角膜移植後に角膜の厚みと屈曲率が回復し、ドナー角膜移植をした患者と同程度に視力が改善することが明らかとなった。20人の試験参加者のうち14人は失明していたが、人工角膜の移植から2年後には全員目が見えるようになり、コンタクトレンズの装着に耐えられるようになっていた。さらに失明していたインド人3人は、視力が完全に回復した。

この人工角膜を医療機器として使用するには、大規模な臨床試験を実施して市場認可を取得しなければならないが、今回の結果は角膜が原因で失明や弱視になっている人に希望をもたらすものだ。研究チームは、この技術が他の眼科疾患に応用可能か、また人工角膜を患者ごとに適したものにすることでより高い効果が得られるかについても、今後研究を進めるとしている。

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