耐高電圧で堅牢なトランジスタを製造する新手法を発表――界面変形により転位密度を低減

Photo:Magnus Johansson

スウェーデンのリンショーピング大学とウエハーメーカーであるSweGaNの共同研究チームは、2020年1月7日、厚さ数ナノメートルの半導体の層を組み合わせるという新しいトランジスタ製造手法を発見し、高出力電子機器向けの新しいタイプのトランジスタを製造したと発表した。研究成果は、学術雑誌『Applied Physics Letters』において2019年11月25日付で発表されている。

ガリウムナイトライドとも呼ばれる窒化ガリウム(GaN)は、効率性の高い発光ダイオード(LED)の材料として使用される半導体で、高温や強電流に強いことからトランジスタなどに利用され、将来において電気自動車の電子部品に活用できると大きな期待が寄せられている。

結晶材料を他の結晶材料の基板上で成長させるエピタキシーとして知られる方法によって、窒化ガリウムの蒸気を炭化シリコン(SiC)のウエハー上に凝縮し、薄い膜を形成する。この製法は半導体産業でよく使われており、GaNとSiCの組み合わせは高出力を必要とする製品の回路に適している。

1986年に、当時大学院生だった天野教授がサファイア基板上に窒化アルミニウム(AlN)バッファ層を用いたGaN単結晶を作製するというヘテロエピタキシーを発明したが、GaNとSiCの界面状態が良くないので、格子不整合がトランジスタの故障を引き起こすという。

これはGaN層で転位(結晶欠陥)が高密度に発生する問題として知られており、絶縁破壊特性を低下させる。通常、サファイア、シリコン、炭化シリコンなどの異種基板上で成長した横型GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)の臨界絶縁破壊電界値は、0.6~0.85MV/cmにしか到達できないという。これは、最高理論値3 MV/cmには程遠い。

GaNデバイスのポテンシャルを完全に引き出すには、GaN層で発生する転位(結晶欠陥)の密度を最小限に抑える必要がある。現状では2つの素材の界面に薄いアルミニウム層を挟み込むことで不整合を回避している。

今回の研究では、高電圧に耐えるトランジスタを作製するための新手法を「transmorphic epitaxial growth(変形エピタキシャル成長)」と名付けている。これまで知られていなかったエピタキシャル成長メカニズムで、面外の組成勾配と面内の空格子点秩序化を組み合わせ、異なる層の界面を変形させて格子不整合を数層の原子層で徐々に吸収するという仕組みだ。つまり、炭化シリコン基板上でGaN層とAlN層を原子レベルで相互にどう結び付くのかをコントロールして成長させることができる。

研究者たちは、最大1800Vの高電圧に耐えることを実証。従来のシリコンベース半導体トランジスタであれば、火花が飛んで破壊されるような高電圧にも耐えるというから驚きだ。具体的には、900Vおよび1800Vの横方向絶縁破壊電圧をそれぞれ5μmおよび20μmの接触距離で実証し、縦方向絶縁破壊電圧は3kV以上だったという。

本研究成果は、GaNパワーデバイスにとって新しい扉を開くものだと期待できる。

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New method gives robust transistors
Transmorphic epitaxial growth of AlN nucleation layers on SiC substrates for high-breakdown thin GaN transistors

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