産業技術総合研究所(産総研)は2018年2月3日、東京大学などと共同で、厚さ数分子単位の2次元有機単結晶ナノシートの大面積化が可能な成膜プロセスを開発したと発表した。
有機半導体は、その柔軟性や簡便な印刷プロセスで成膜できるなどの特性から、次世代の電子材料として注目されている。しかしながらシリコンなどの無機半導体を比較して非常に大きな接触抵抗を持つため、接触抵抗の影響を受けやすい短チャンネルでは、トランジスタのスイッチング性能を左右する電荷移動度が大幅に低下するという課題があった。
今回開発した成膜プロセスでは、有機半導体インクを用いた簡便な印刷手法によって、分子スケールでの膜厚が制御された厚さ15nm以下の2次元有機単結晶ナノシートを、10cm角以上の大きさで作製することに成功した。
同シートを用いた有機電界効果トランジスタは、同タイプのトランジスタとしては最小の47Ωcmしか接触抵抗を持たず、13cm²/Vsの高い電荷移動度を示した。また、短チャンネルデバイスにおいては世界最高レベルとなる20MHzの遮断周波数(トランジスタの増幅特性を示す上限の周波数)を実現。さらに、無線タグの商用周波数13.56MHzを大きく上回る29MHzで応答可能な整流素子を作製することに成功した。
今回の開発により、これまで有機半導体の応用が難しいと考えられていた高速演算が必要な論理素子などへの応用が期待されるという。また、簡便な印刷手法によって量産できるため、低コストの無線タグや生体信号をモニターするヘルスケアデバイスなどへの展開も考えられるという。
同研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究事業(さきがけ)研究領域「分子技術と新機能創出」、研究課題「革新的有機半導体分子システムの創出」の一環として行われた。