バクテリアで二酸化炭素を燃料に変える――人工光合成バイオハイブリッドシステムを開発、将来の火星探査も視野に

UC Berkeley photo by Peidong Yang

カリフォルニア大学バークレー校、ローレンスバークレー国立研究所の研究チームは、バクテリアとナノワイヤを組み合わせた人工光合成システムから、効率的に有機化合物を生産する技術を開発した。二酸化炭素と水から、燃料や薬品の原料となるアセテート(酢酸塩)を合成する。地球の環境問題に対応できるだけでなく、将来の火星移住計画にも大いに役立つと期待される。研究結果は、2020年3月31日付けの『Joule』に掲載されている。

温室効果ガスやエネルギー資源に対処するために、植物のように太陽エネルギーを使って、二酸化炭素と水から炭水化物(糖)を生成する人工光合成に注目が集まっている。Peidong Yang教授率いる研究チームも、8年前からバクテリアとナノワイヤを組み合わせたバイオハイブリッド人工光合成システムの研究をしている。嫌気性バクテリアを触媒として、二酸化炭素と水からアセテートを生成するシステムで、5年前には太陽エネルギー変換効率0.4%と、一般的な植物と同レベルを達成している。

今回、研究チームは「ナノワイヤの森」にバクテリアを効率的に詰め込み、変換効率を上げることに成功した。初めは、単純にたくさんのバクテリアをナノワイヤに詰めようとしたが、うまくいかなかった。その理由は、バクテリアがアセテートを生成すると周囲の水のpHが上がるため、バクテリアがナノワイヤから分離して回路を破壊してしまうためだと分かった。そこで、水を弱酸性に保つことで、より多くのバクテリアが連続的にアセテートを生成できるようにし、1週間にわたって約3.6%の高い変換効率を達成した。

今回のシステムは他の光起電力デバイスと組み合わせているが、最終的には、ナノワイヤ自体が太陽光を吸収して電子を生成し、バクテリアが電子を取り込んで、二酸化炭素と分子をアセテートと酸素に変換するシステムとなる。

研究チームは、このシステムを火星でも利用できると考えている。火星大気の約96%は二酸化炭素であり、水も氷の状態で極冠や地下に豊富にあるという。アセテートは、燃料やプラスチック、薬品の原料になる。また、副産物として発生する酸素は、居住区の人工大気に使うこともできる。「深宇宙探査では、ペイロードの重さが重要になる。生物学的システムは自己増殖するという利点があるので、たくさん運ぶ必要がない。このバイオハイブリッドシステムはとても魅力的だ」と、Yang教授は語る。

研究チームは、引き続きシステム効率の向上に取り組んでいる。加えて、遺伝子工学技術を使ってバクテリアが多様な有機化合物を生成する研究も進めている。

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