重元素の起源に迫る加速器実験

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CERN重イオン線形加速器HIE-ISOLDEにおける、ソレノイド分光計(ISS)内部 Image by Ben Kay, Argonne National Laboratory

アルゴンヌ国立研究所を中心とする国際研究チームが、欧州原子核共同研究所(CERN)の施設を用いて、原子核として高い安定性を有する同位体206Hgを、高エネルギーに加速して重水素に衝突させ中性子を捕獲させることにより、中性子殻の構造と結合状態を把握する実験に成功した。中性子星や超新星のような天体現象に伴う中性子捕獲により生成して、宇宙に存在する多くの重元素の起源に関する重要な知見が得られるとともに、初期の宇宙に関するモデル化についても有用な情報が得られると期待される。研究成果が、2020年2月13日の『Physical Review Letters』誌に公開されている。

宇宙に存在する元素に関して、水素やヘリウム(原子量1、2)は宇宙の始まりのビッグバンにより生成され、それより重い鉄(原子量56)までの元素は、恒星内部における核融合で生成されると考えられている。一方、金やウラン(原子量197、238)、レアアースなどの鉄より重い元素の生成に関しては、中性子星合体や超新星爆発に伴う中性子捕獲プロセス(r過程)が1つのメカニズムであるとされてきた。研究チームは、特に原子量190以上の重元素を生成するr過程の解明にチャレンジし、鉛(原子量207)よりも軽いが、126以上の中性子を持つ原子核が、中性子を捕獲するプロセスを再現することに成功した。中性子数126は、原子核を安定化させるマジックナンバーの1つとされる。

研究チームは、CERNの重イオン線形加速器「HIE-ISOLDE」を用いて、陽子の高エネルギービームを溶融鉛のターゲットに照射し、その衝突によって数百の特異な放射性同位体を生成した。その中から分離した206Hg(中性子数126)を用いて、最高レベルのエネルギーを有する原子核ビームを発生させ重水素ターゲットに衝突させた。その結果、206Hgが重水素から中性子を捕獲し207Hg(中性子数127)になる瞬間を、ソレノイド分光計(ISS)により検出することができたのである。206Hgが重水素から中性子を捕獲すると、同時に陽子が放出されるが、ISSによって陽子のエネルギーとスペクトルを調べることにより、原子核の構造と結合状態に関する重要な情報が得られる。これらのデータは、r過程の理解に対して重要であるとともに、中性子星合体や超新星爆発など、天体現象のモデル化にも役立つ。

ISSには、アルゴンヌによって開発された、ヘリカル軌道分光計HELIOSが組み込まれている。過去1世紀の間、原子物理学者は、軽イオンのビームを様々な元素に衝突させることにより、原子核の情報を得てきた。一方、重イオンのビームを軽元素のターゲットに衝突させる場合、衝突の物理学が著しく変質し解釈が難しくなる。HELIOSは、この問題を解決する重要な手段を与えてくれる。研究チームは今回の実験により、r過程に関する理論的な予測を確認することに成功した。今後、207Hg近傍の他の原子核の研究を計画しており、天体核物理とr過程の未知の領域において詳細な知見を得ると期待している。

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