レーザー光による固体内電子運動の操作で光の発生制御に成功――高次高調波光の偏光特性が操作可能に 京都大学

京都大学は2020年6月19日、波長の異なる強い近赤外のレーザー光パルスを半導体材料GaSeに同時に照射すると、可視から紫外光領域にわたって発生する高次高調波光の偏光特性を操作する方法を発見したと発表した。

近年のレーザー光パルスやテラヘルツ光パルスの高強度化によって、試料を熱的に破壊することなく瞬間的に非常に強い光電場を物質内部に印加できることが可能になっている。強い電場の光と物質との極端な非線形相互作用は、従来の物理学の枠を越えて新しい融合分野としての強電場光科学を形成しつつあり、これまでにない新しい光学現象も見られている。

その一つに、固体からの高次高調波光発生がある。これは、入射電場の整数倍の周波数を持つ高次高調波光が発生する現象で、赤外線からX線に至る幅広い波長の光源やアト秒パルス光源といった新たなフォトニクス技術への応用が期待される。

この現象は、強いレーザー光を照射することで生成されるキャリアが、さらに光電場で加速されて発生する非線形電流が、発生起源の一つと考えられている。しかし、これまでの研究では、主に単一のレーザー光パルスが励起光として用いられてきた。より広範な波長変換技術への発展のためには、二つのレーザー光励起による高次高調波光の光波混合の実現や、発生した高次高調波光の特性の理解と制御が求められる。

研究では、近赤外光領域の2色の異なる波長(λ1=2.4um(125THz)、λ2=1.3um (230THz))を持つレーザー光パルスを半導体試料のGaSeに照射。高次高調波光の光波混合を初めて実現した。約10兆分の1秒ととても短い時間幅の二つのレーザー光パルスが同じタイミングで試料に照射されると、二つのレーザー光の各々の波長の整数倍の高次高調波光に加え、二つの波長の和、および差の波長を持つさまざまな次数の高次高調波光が観測された。また、これらの高次高調波光の強度は結晶角度に依存し、レーザー光の強度を高くすると低い強度では観測されない結晶の角度依存性が出現することが判明した。

単一のレーザー光λ1による励起では、高次高調波光の偏光方向はそれとほとんど同じになる。しかし、強いレーザー光λ1よりも100倍程度弱いもう一つのレーザー光λ2を同時に照射すると、レーザー光λ1励起だけの場合に比べて、90度回転したレーザー光λ2の方向に100倍程度増強された高次高調波光が発生することを発見した。また、これらの異常な高次高調波光の角度依存性や偏光回転は、GaSeの結晶の電子状態を近似的に取り込んだ2次元的な電子運動のモデル計算によって再現できた。これらの結果は、2色のレーザー光の電場で電子運動を2次元的に操作でき、高次高調波光の偏光を大きくする方法を示している。

本研究成果は、高調波発生メカニズムの理解の深化をもたらし、また非常に幅広い波長範囲で発生する高次高調波光の特性を制御する新しい光技術となり得る。今後、特異なトポロジーの電子構造を持つ物質へと研究を発展させることで、全く新しい光の特性制御方法への展開のほか、従来のエレクトロニクス技術のスピードをはるかに凌駕する光の周波数で動作する光エレクトロニクス技術開発への貢献が期待される。

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