製造業における「AIと画像認識」技術の導入実態――AI導入に向けての課題は、技術よりも人にあり

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株式会社キカガク 執行役員 祖⽗江誠⼈氏

今回の連載では、製造業における「AIと画像認識」をテーマに、AIや機械学習の教育事業を展開する株式会社キカガク 祖⽗江誠⼈氏にお話を伺います。第1回は、製造業特化型の研修の紹介を通して、「AI導入に必要となるエンジニアのスキル」について、紹介しました。

第2回は、「AI導入に向けての課題」についてお届けします。実践的な実装スキルを身に付けるために半年間の研修を受講しても、実際の製造現場をAIで革新するのは容易ではないようです。その背景には、どのような事情があるのでしょうか。(執筆:後藤銀河)

伝統的な製造業でAIの導入が進まない

――実践的なAI導入研修を受講しても、なかなか自社の現場で適用できないということでしょうか?

[祖父江氏]製造業の現場では、AIや画像認識という技術があるらしい、といった認識が多く、まだ試験的に適用するという段階が多いようです。私の知る範囲では、既存の技術を代替して、本番の生産ラインに入れたという事例はまだ伺っていません。

――実用化にはまだ技術的な課題があるということでしょうか?高い品質を維持するためには、まだAIでは難しいと判断されているのですか?

日本の製造業ではまだまだAIの導入は進んでいないという

[祖父江氏]製造業の中でも、特に技術の秘匿管理の厳しい自動車業界では、例えば汎用クラウドサービスを利用したソリューションを工場に導入する際、セキュリティ評価の面で採用が難しかったというケースを聞きました。生産システムなど基幹システムが動いているイントラネットを、インターネットや外部ネットワークに接続するのは、秘匿管理の点でハードルが高く、このケースでは専用サーバーを立てて何とか導入できたようです。

――技術というよりもセキュリティポリシーの視点ですね。実装案の内容は、社内のシステム部門と事前にすり合わせるなどの確認が必要ということでしょうか。

[祖父江氏]せっかく現場主導でAIを導入しようとしても、ネットワークの接続で手間取って半年経過してしまい、現場の期待も下がってしまうこともあるようです。

AIの導入に関して、日本よりも諸外国、特に中国は大分進んでいて、人間が全くいない完全自動化された電池工場などが稼働しています。最初から無人工場として計画することで、人件費もそうですが、光熱費も大幅に削減できるというメリットがあります。完全に無人化しているので施設全体の照明が不要ですし、冬でも暖房が要りません。休憩所や食堂も不要な上、24時間365日休みなく稼働できる。AIによる自動化の先にはこういう世界があるということは、実は製造業のトップの方は成功例として理解されていて、積極的に導入していこうという立場が多いです。

会社の中では中間にいるマネージャー層が、AI導入のメリットを理解していないことが多いようです。受講生の方で、AI導入に1年かかったという方がいますが、そのうち8カ月をマネージャーへの理解と合意形成に使ったと聞きました。

現場のマネージャー層のAI理解が課題

――現場のマネージャー層が導入の壁になる、ということもあるのですね。

[祖父江氏]会社での経験が長い彼らには、今まで20年、30年と、こういう手順を踏めばうまくいく、という実績や経験則があり、それに対する自信があるわけです。今うまくいっていることを変える必要があるのか、仕事が増えるのではないかという懸念は、特に大きな組織をマネジメントする立場としては当然感じることでしょう。AIに関しては、日々進歩している技術であり、誰も経験したことがない、という企業も多いです。だからこそ、未知の技術に対するリスクや不安を取り除くための、理解促進や啓蒙活動が必要だと思っています。

――伝統的な製造業でも、これまで生産ラインの自動化などは積極的に推進してきたと思います。なぜAIの導入には二の足を踏んでしまうのでしょうか?

導入が進まないのはAIに対する理解が進んでいないことが一つの要因

[祖父江氏]多くの場合、AIを正しく理解していないからだと考えています。AIに対する不十分な知識から、AIは万能で全てを代替してくれると誤解してしまうこともあるようです。既存の生産ラインに1から10まで工程があるとして、全部AIで出来ると思っていると、実際導入してみたら70%しか出来ない、それなら導入しないと判断してしまう。

AIに完璧を求めず、工程全体として保証するという考え方

[祖父江氏]「ヒューマンインザループ」という言葉がありますが、実際に10の工程があれば、7つはロボットにやらせて3つは人間がやるなど、うまく人間とロボットを融合させることが大切です。AIも同様で、導入のためにはメリット、デメリットも含めて正しくAIを理解することが重要になりますので、これからはその理解促進に注力していきたいと考えています。

――実際にAI導入によって、高い効果を得た事例はありますか?

[祖父江氏]受講生が2人いる企業で、1年半くらいかけて、ようやく導入しようとしている事例があります。そこでは自分たちで社内勉強会を立ち上げ、講演会も開催して、導入による効果はとても大きい、という意見が出ていると伺っています。

例えば、製造ラインが10本あったとして、1つのラインを設計すれば、同じものが10本できます。しかし、作業者は一から教育する必要がありますから、同じようにはいきません。AIはプログラム1本作れば転用性がありますから、作業者を一から教育する必要がなく、海外工場でもすぐに同じことができます。こうした点でも、AI導入の費用対効果は高いと思います。

中国はDo Firstで、開発にスピード感がある

――少し話は戻りますが、AIの導入については中国が日本よりも進んでいると伺いました。

[祖父江氏]中国とアメリカは、日本よりもずいぶん進んでいます。数年前までは日本も先頭グループにいましたが、日本は研究に対する補助金などが少ないこともあり、周回遅れになっていると感じます。

これには新しいことへのチャレンジに対する考え方の違いもあります。中国人に聞いてみると、「日本人はThink Firstで、最初にいろいろ考えて、あらゆるリスクを止めていくよう検討するが、中国人はDo First、失敗したら止めればよい」と考えるそうです。まずやってみようというスタンスでどんどん回していく。うまく行かなかったら原因を考えて修正し、またやってみる。この回転率の差が、日本と中国の差につながっているのだと思います。

――日本では失敗したら責任を追及されると考えて、腰が引けてしまうのでしょうか。

[祖父江氏]そうだと思います。AI自体、システム開発のように最初にルールを決めてやるというよりも、如何に試行錯誤を繰り返して回していくのかという技術です。アノテーション(データを精査し、対応したタグ付けを行うことで、教師あり学習に使うデータの元になる)を作り、モデルを作って、学習させて、推論させて、ダメならモデルを変えてみる。それでもダメなら最初に戻って撮影環境から変えてみるとか、とにかく試行錯誤を繰り返しながら、問題点を改善していくわけです。

システム開発のように、最初にガチガチに検討するとうまくいかない。システムとAIでは、どちらもプログラムではあるけれども、考え方は逆なんです。これを受け入れるためには、システムとAIは別々の違うものだというクラスタリングをしてあげることが必要です。

――経営層向けのマインドセット研修のようなイメージでしょうか。

[祖父江氏]そうですね。弊社では2019年11月に、メルカリの経営層向けに「データに基づく意思決定を学べる研修」を実施しました。

経営層向けということで、数学やプログラミングの話は必要最小限に絞り、データに基づく意思決定を行うために必要なデータ設計の方法と、そのデータからモデリングを行う方法を解説しました。AIのモデル構築を行うツールは、MicrosoftのAzure Machine Learning Studioという、モジュールをドラッグドロップで組み合わせるだけで実現できるものを使用し、ノンプログラミングでGUIを使って問題解決できるものです。インプットが必要なくて、決定木が分からなくても、何かモデルを用意して、データだけが分かっていれば結果が出ることが分かります。これによって、「AIってこういうものなんだ」という勘所を掴むことができ、実務で必要となる内容を学べるというものです。

経営層にとって大切なのはプログラミングの技術ではなく、知識を元にどのように意思決定するのか、です。AIを意思決定するためのツールとして使おうという提案をしています。

次回は「AI導入の事例と求められる人材」と題して、お話を伺います。


祖⽗江誠⼈(株式会社キカガク 執行役員)
高知市役所を退職した後に上京し、これからのAI技術の重要さを知り独学で勉強を開始。2018年株式会社キカガクへ入社。新規事業部に配属となり、中部地方で製造業向けのAI技術研修事業の立ち上げに携わる。2020年4月より現職。

取材協力先

株式会社キカガク


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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