製造業における「AIと画像認識」技術の導入実態――これから導入を目指すエンジニアに必要なスキルとは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

株式会社キカガク 執行役員 祖⽗江誠⼈氏

製造業でAI(Artificial Intelligence:人工知能)の導入を進める企業が増えてきています。AIやニューラルネットワークなどの技術は、新たな事業領域を開拓したり、既存の業務プロセスを効率化したりと、大きなメリットが期待される一方で、数学や統計学などの知識が必要とされることから、導入のハードルが高いという声も聞かれます。

今回の連載では、AIや機械学習の教育事業を展開する株式会社キカガク 祖⽗江誠⼈氏にお話を伺い、製造業のAI導入で必要となるエンジニアのスキル、AI導入の実態や課題、今後の展望などを紹介していきます。全3回の連載で、第1回目は「AI導入に向けて必要なエンジニアのスキル」について、お届けします。(執筆:後藤銀河)

――御社の事業内容について、ご紹介いただけますか?

[祖父江氏]AI、機械学習、ディープラーニングを含めた最先端技術に関する教育事業を手掛けています。会社は4期目に入ったところで、これまで3年間で2万5000人以上の方にAI技術の教育サービスを提供してきました。2019年からは、東北大学などの研究機関と連携しながら、より幅広く教育事業を手掛けていこうとしています。当社のサービスの中で一番人気があるのは3日間のハンズオンAI講座で、参加者は毎回10~15人くらいですね。研修内容によって変わってきますが、幅広い業界の方が参加されています。

――3日間のAI研修で、どの程度の知識が身に付くのでしょうか?

[祖父江氏]実は、AIの勉強を始める人の多くが「参考書の数式が難しくてよく分からない」と感じているようなのです。そこで当社の3日間のハンズオンAIコースは、実際にやってみればそれほど難しくない、ということを実感してもらい、AIの参考書が自分で読める、自分で自立して勉強できる、というレベルに到達することを目的としています。

具体的には、数学、微分とは何かといった基礎から入り、AIを学ぶために最低限必要な知識として、「AIの基礎」「画像処理」「自然言語」の3つを習得します。

また、より専門的な知識を必要とする方に向けて、私は2019年に名古屋で製造業特化型の研修コースを開発し、立ち上げました。こちらは、AI研修よりも更に深く細かく、画像認識やセンサーデータの処理などを学ぶことができる、現場での実践を意識した内容になっています。

名古屋で製造業特化型の研修を立ち上げた

[祖父江氏]製造業特化型の研修コースは1回3時間を週2回、半年間かけて行うスケジュールで、「基礎編」、「画像」、「時系列」、「組み込み」という4部構成に分かれています。最初の4週間は機械学習の基礎を学んでいただき、ここで受講生の足並みを揃えます。具体的には、「教師あり学習(※1)」「決定木(※2)」「SVM(サポートベクターマシン)(※3)」など、特に実装に向けた学習の基礎となる知識、用語をメインに学習します。

次に、実際に機械学習の具体事例として、画像処理を取り上げます。まずコンピュータービジョンのライブラリである「OpenCV」の使用方法から始め、機械学習向けのライブラリ「TensorFlow」を使ったディープラーニング、画像の分類と物体検出、分類してラベルやカテゴリを付けていく「セマンティックセグメンテーション」「生成モデル」といった、実際によく使われている分野を中心に、講義と演習を8対2くらいの割合でやります。

画像処理が終わったら、時系列問題として、異常検知、例えば波形の異常をどう分析するのかといった、データの解析について解説します。画像、学習、時系列と一通り習得したところで、実践を意識した組み込みへと進みます。

組み込みと言っても、実際にシステム全体を作るのはシステムエンジニアの役割なので、AIの使い方を簡単に学べるようにしています。具体的には、Pythonを使ってサーバーを立ち上げて、画像を入力すると認識した結果が返ってくるようなAPIの作り方を学びます。エッジデバイスとしてのシングルボードコンピューター「Raspberry Pi」の使い方や、「Docker」によるコンテナ仮想化「推論環境の構築」などをお伝えしています。

――AI研修が入門編であるのに対して、製造業特化コースは実務適用まで意識しているとうことでしょうか。どのようなポジションの方が受講されていますか?

[祖父江氏]製造業向けということもあり、自動車、電力、航空関係が多いですね。立ち上げ当初は現場の30~45歳くらいのエンジニアの方が中心でしたが、最近では研究室で機械学習を研究していたような新卒や院卒の方も増えてきました。

他にも、機械学習の理論に強くて数式は分かるが、活用法に行き詰まる方、「Pythonを使ったことがなくて、実装方法が分からない」という方も多いです。研修ではRaspberry Piも使っていますが、機械学習についての参考書を読み解く上でも、広く使われている言語であるPythonは必要になります。

――研修の成果として、実務に適用するための実装方法を知りたいというニーズが多いのでしょうか。

[祖父江氏]製造業の製造ラインや検査ラインの自動化、特に異常検知というニーズが一番多いです。そのため、6カ月のコースで、最初の3カ月でインプット、残りの3カ月は実装のための演習を行っています。グルグル回るベルトコンベアを使った研修機材を用意し、これに100枚位の傷あり、傷なしの画像を判別させるシステムをつくるというものです。8週間くらいで作って、実際に画像認識のシステム構築を体験することができます。

研修での模擬装置を使った試験の様子

[祖父江氏]ここで実際にやってみるというのが大切で、例えば画像認識のモデルにしても、傷があることは前提です。その傷が分からなければ、どんなにいいモデルでも使えない。現場で重要なのは、ワークの傷をどうやって見るのか、ということなのです。研修で組み上げた画像認識のシステムで検証すると、光の当て方やライトやカメラの重要さといった、実装の勘所が体感できるわけです。

――確かにそもそも傷が検出できないと、検査システムにならないですね。実際に企業で導入しようとしたときに課題となりそうな点ですね。

[祖父江氏]画像認識はモデルを作って終わりじゃない、ということを感じてもらえればと思っています。そのため、3カ月間はPBL(Project Based Learning)という構成をとっていて、これはお題を提供して、受講生が自分で考えて実装するという進め方になります。問題点があればサポートしますが、あくまでも受講生が自分でインプット、アウトプットを繰り返して、半年後には職場の課題を自分で考え、抽出できる人材になることを目指しています。

実は、この製造業特化型の研修を立ち上げたあと、1期、2期の受講生にお願いして、実際に製造業のラインを見せていただきました。私自身、製造業の業界知識の知識を入れて、より実践寄りの研修講座を提供できるように心掛けています。

――回を重ねて、より実践的な内容になっているのですね。受講生の方から、実装につながったという報告はきていますか?

[祖父江氏]テストケース的にトライアルしてみたという事例はありますが、既存の検査設備を置き換えたというレベルの話はまだ聞いていません。まだまだ、本番の生産ラインにAI技術を導入するには、乗り越えるべき課題があるようです。

次回は「AI導入に向けての課題」と題して、お話を伺います。

(※1)事前に与えられたデータを例題とみなして、それをガイドに学習を行う、機械学習の手法の一つ
(※2)分類問題と回帰問題を解くための、教師あり学習のアルゴリズムの一つ。
(※3)分類や回帰へ適用できる、教師あり学習を用いるパターン認識モデルの一つ。


祖⽗江誠⼈(株式会社キカガク 執行役員)
高知市役所を退職した後に上京し、これからのAI技術の重要さを知り独学で勉強を開始。2018年株式会社キカガクへ入社。新規事業部に配属となり、中部地方で製造業向けのAI技術研修事業の立ち上げに携わる。2020年4月より現職。

取材協力先

株式会社キカガク


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る