グラフェンを用いた再利用可能な光電陰極電子源用基板を開発――先端的加速器や電子顕微鏡への応用に期待 名古屋大学ら

名古屋大学は2020年6月29日、米国ロスアラモス国立研究所などと共同で、グラフェンを用いた半永久的に再利用可能な光電陰極電子源用基板を開発したと発表した。

今回開発には上記の他に、高エネルギー加速器研究機構、自然科学研究機構分子科学研究所が参加した。

アルカリ金属を基本材料とした高性能光電陰極は、放射線検出器や高感度撮像機器の光電陰極として広く利用されている。中でもセシウム(Cs)、カリウム(K)、アンチモン(Sb)の化合物(CsK2Sb)は、高い量子効率を示す高性能の光電陰極薄膜の1つだ。しかし同薄膜を一度基板上に形成すると加熱などによる簡便な方法による除去が困難で、劣化した場合には基板を交換して光電陰極を再形成する必要があった。そのため交換の都度発生する機器の停止時間が課題となっていた。

今回の研究では、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)の従来の基板とこれにグラフェンをコーティングした基板を真空中で加熱洗浄した後に上記の光電陰極物質を蒸着。再度加熱洗浄と蒸着を繰り返すことで基板を再利用した状態にし、その際のグラフェンコーティングの効果を検証した。その結果、従来のSiとMoのみの基板では、量子効率が大幅に減少したが、グラフェンコーティングした基板では、ほとんど減少が見られなかった。

また、分子科学研究所の小型高輝度放射光源を用いて、放射光によって加熱洗浄後の基板の状態を調べたところ、グラフェン表面では光電陰極物質の残留はないが、SiとMo基板では多く残留していることが分かった。

さらに、加熱洗浄と蒸着を繰り返した後の基板に対して角度分解光電子分光法によって観測した結果、グラフェン特有のバンド構造が確認され、グラフェンがほとんどダメージを被っていないことが確認された。

これによりグラフェンコーティングした基板表面は、化学的、熱的に非常に安定し、活性な光電陰極物質を500℃程度の加熱で容易に繰り返し除去できることから、半永久的に再利用できることが示された。同基板の開発によって先端的な加速器や電子顕微鏡などにおいて容易に高性能光電陰極を利用できる環境が整うという。さらに、化学的に活性な物質に晒されることによる腐食や劣化に対する、グラフェンコーティングによる表面保護の効果も期待できるという。

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