- 2020-8-6
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- Jun Rui, マックスプランク量子工学研究所(MPQ), メタマテリアル, 光学ガラス, 光学ミラー, 多体物理学, 量子光学理論, 量子論
独マックスプランク量子工学研究所(MPQ)は、2020年7月16日、髪の毛よりも薄い光学ミラーを開発したと発表した。この新しいメタマテリアルは、数百の同一原子で構成される単一層構造だという。研究成果は、『Nature』に2020年7月15日付で発表されている。
通常、ミラーは、高度に研磨された金属表面あるいは特別にコーティングされた光学ガラスを利用して、より軽量でありながら性能を高めるようにしている。一方で、MPQの博士研究員であるJun Rui氏をはじめとする研究者らは、数百の原子からなる単一構造を持つ層が光学ミラーの役割を果たすことを初めて実証した。このミラーの厚さは数十nmで、人間の髪の毛の幅よりはるかに薄い。このような薄さでありながら非常に強い反射を示し、人間の目でも反射光を確認できるという。
このミラーを構成する原子の2次元配列は、原子の光学遷移波長よりも短い間隔で規則的に配列されている。これはメタマテリアルに典型的かつ必要な特性だ。規則的なパターンとサブ波長間隔という特性、そして、これらが相互に作用することが、この光学ミラーの重要な働きを担うという。原子の規則的なパターンとサブ波長間隔の両方が光の散漫散乱を抑制し、反射光を安定した一方向の光線にする。そして、原子間の距離が比較的近い状態で離散しているため、入射光子は、ミラーを構成する原子から反射されるまでに原子間を何度も往復できる。つまり、光の散乱の抑制と光子の跳ね返りという両方の効果によって、非常に強い反射をもたらすことになる。
この量子光学実験で利用される装置は1000個以上の光学部品で構成され、装置の重さは約2tにもなる。巨大な装置で開発された軽量な光学ミラーの直径は約7μと非常に小さく、このミラー自体を人間の目で見るのは難しい。そのため、日常生活で利用されている鏡への応用はないといえるだろう。しかし、科学面では広範囲に影響を及ぼすかもしれない。
Rui氏は「光子を媒介とする原子間の相関性は、我々のシステムで重要な役割を果たしていますが、これまでの量子光学理論では一般的に無視されてきました。その一方で、超低温原子を光学格子に入れ込んで作られる原子の秩序配列は、主に凝縮系物理モデルの量子シミュレーション研究に利用されてきましたが、新しい量子光学現象を研究するための強力なプラットフォームにもなることが分かりました」と語っている。
今後、さらに研究が進めば、光と物質の相互作用の量子論や光学光子による多体物理学への基本的理解が深まり、より効率的な量子デバイスの開発が進む可能性がある。また、この研究成果は、量子メモリーの改善や量子切り替えが可能な光学ミラーの構築など、量子情報処理の進歩にも役立つと期待されている。