コンピュータを宇宙線から守れ――MIT、環境放射線が量子コンピュータの発展を妨げると発表

米MITの研究チームは、宇宙線や身の回りに存在する環境放射線が量子コンピュータの性能に影響すると発表した。量子コンピュータにまつわる研究は飛躍的に発展しているが、地下にコンピュータを置くなど、何らかの放射線対策をしないと、あと数年で性能の限界に達する可能性があると指摘している。研究結果は、2020年8月26日付けの『Nature』に掲載されている。

量子コンピュータの基本素子である超伝導量子ビットは、超伝導材料から作られる電子回路だ。回路中の電子はクーパー対となり、量子ビット(キュービット)の重ね合わせ状態を維持するように働く。しかし、磁場のゆらぎ、熱エネルギーなどが加わるとクーパー対は準粒子に分かれ、重ね合わせ状態が失われて(デコヒーレンス)、計算エラーにつながる。

重ね合わせ状態が持続する時間(コヒーレンス時間)は、これまで様々な研究機関がデコヒーレンス要因に対処してきた結果、約200マイクロ秒まで長くなったが、研究チームは以前から、非常に低レベルの放射線も要因の1つではないかと懸念していた。そこで、MITリンカーン研究所、パシフィックノースウエスト国立研究所(PNNL)と協力し、低レベルの環境放射線の影響を確かめた。

まずは、2枚の銅のディスクに中性子線を照射して、放射性同位体の銅-64を作り出し、1枚は超伝導量子ビットと共に希釈冷凍機に入れ、放射線が量子ビットの干渉性に与える影響を計測した。もう1枚は、ゲージとして室温で計測された。実験とシミュレーションから、量子ビットのコヒーレンス時間の限界値は、約4ミリ秒になるとした。

次に、環境放射線から量子ビットを保護する方法を検討した。研究チームは、冷凍機の周りを2トンの鉛の壁で囲み、昇降機を使って、数週間にわたり、10分間隔で壁を上げ下げしながら環境放射線の暴露と遮蔽を繰り返し、量子ビットの緩和率を計測した。計測データから環境放射線の影響を効率的に抽出し、4ミリ秒という予測を裏付けるとともに、量子ビットの性能がシールドで改善することを示した。

宇宙線の強度は地下に行くほど弱くなる。研究チームは、ニュートリノ実験施設のように地下深い場所である必要はないが、地下に量子コンピュータを設置した方が性能が良いとしている。ただし、William Oliver准教授は、地下に潜る以外にも選択肢があると付け加えている。

「量子コンピュータを産業として確立するには、地上での放射線対策を考えた方が良い。量子ビットに放射線耐性を持たせ、準粒子に対する感度を下げる、もしくは準粒子にトラップを仕掛けるなどの方法が考えられる。決してゲームオーバーではないのだ」と、Oliver准教授は述べている。

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