筑波大学は2020年10月23日、同大学数理物質系エネルギー物質科学研究センターと産業技術総合研究所センシングシステム研究センターとの研究チームが、藻類オイルや植物由来の精油成分、余剰資源の硫黄を用いて、赤外光透過性とゴムのような弾力性を有する高分子材料を開発したと発表した。
環境への負荷が少ない材料として、近年藻類が作る炭化水素(オイル)が注目されている。藻類は、オイルを作る過程でCO2を吸収するため、製造に伴うCO2排出量が差し引きマイナスとなる「カーボンネガティブ材料」としての可能性が期待されている。
同研究チームは今回、藻類オイルと植物が作り出すテルペン類に石油精製の過程で発生する余剰資源の硫黄を組み合わせることで、低コストで成型加工が容易な赤外領域の光学材料を開発した。赤外用光学素子材料としては、従来ゲルマニウムやシリコン、セレン化亜鉛などの無機物が用いられているが、原材料や製造にかかるコストが高く、加工が難しいといった点が課題となっていた。
藻類オイルと硫黄、テルペン類を基本原料とし、温度や時間などの反応条件や混合比を最適化することで、赤外透過性や加工性、弾性に優れた材料の合成に成功した。触媒や溶媒を必要とせず、3種類の材料を混合して加熱するだけの単純なプロセスで製造できる。
成形も容易で、ホットプレスなどの一般的な成形に加えて、架橋が完全に進んでいない段階で流動性を有する同材料を鋳型に流し込んで加熱し、架橋を進行させて固める手法も用いることが可能(上図)。金属の鋳型より安価なシリコーン鋳型などを用いられるため、プロセスをより低コスト化できる。
さらに同研究チームは、同材料を用いてシリンドリカルレンズを成形することで、材料の弾性を生かして焦点の位置を変えられることを実証した。波長5.1μmの矢印形状の赤外光パターンをレンズに入射させ、透過した光を赤外カメラで検出する実験を行ったところ、延伸と収縮が外力に応じて速やかに進行し、矢印パターンが変化することが確認されている。機械式レンズ駆動機構の簡素化に寄与することが期待される。
同研究チームは今後、新たなバイオマス資源の活用や配合比の最適化により、従来の赤外光学材料と同等以上の赤外透過性を目指すとともに、実際の使用を想定した検証を進める。また、応用展開に向けて企業との連携も積極的に進めるとしている。