固体電池の長寿命化につながる発見を報告

独マックスプランク高分子研究所は、個体電池の耐久性改善につながる発見について、2023年3月9日付のオンラインジャーナル『Nature Communications』で論文を発表した。

電気自動車、スマートフォンなどで使用されるリチウムイオン充電池の弱点は、機械的強度(外力による変形などへの耐性)が低いことだ。このため、一部のスマートフォンは航空機への持ち込みが禁止されたり、電気自動車の発火事故が発生した。

一方、今後の実用化が期待される「固体電池」は、液体の電解質をもたず、セラミックのイオン伝導体などの固体材料のみで構成される。高い機械的強度、不燃性、小型化への適性、温度変化への耐性があり、既存のリチウムイオン充電池の課題を克服できる可能性がある。

しかし、固体電池の実用化には、大きな課題がある。現在の個体電池は、充放電の回数が一定以上に達すると、正極と負極がショート(短絡)するのだ。これは、電池の中で「リチウムデンドライト(樹状突起)」が充電のたびに成長し、やがて両方の電極を繋いでしまう現象が発生するためだ。しかしこれまで、この現象を説明する物理的プロセスが不明だった。

研究チームは、特殊な顕微鏡法を利用して、リチウムデンドライトの成長過程を観察した。その成長過程のイメージは、「鍾乳洞」の形成に似ている。すなわち、天井から鍾乳石が伸び、床から石筍が成長して、途中で両者が接するというものだ。

研究チームはそのメカニズム解明の糸口として、セラミックの固体電解質中の多結晶固体を構成している結晶粒の境界である「結晶粒界」に着目した。結晶粒界は、固体層を製造する過程で形成される。セラミック結晶内の原子は原則として規則正しく並ぶものの、結晶成長の過程で発生する微小かつランダムな変動によって、原子の並びが不規則になる部分が生じる。

結晶粒界を観察するための顕微鏡法は、「ケルビンプローブフォース顕微鏡」を使用した。観察の結果、固体電池の充電中、特に負極の近くで、結晶粒界に沿って電子が堆積する様子を確認した。これは、結晶粒界はセラミックの原子配列を変えるだけでなく、それらの電子構造も変えることを示している。

負電荷の粒子である電子が蓄積されると、固体電解質中を移動する正電荷のリチウムイオンは金属リチウムに還元される。その結果リチウムが堆積し、やがてリチウムデンドライトとして成長する。なお、この現象は負極でのみ観察された。

研究チームは、デンドライトの成長過程を正確に理解することで、これを防止/抑制する方法の確立を期待している。その結果、より安全なリチウム固体電池の実用化が進むことが期待される。

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