無線システムの安定化技術の実験に成功――無線可視化と異種システム協調制御で「止まらないライン」を実現 NICTとトヨタ

情報通信研究機構(NICT)とトヨタ自動車は2020年11月25日、製造現場を支える無線システムの安定化技術の実験に成功し、「止まらないライン」を実現したと発表した。止まらないラインは、無線の可視化と異種システム協調制御の技術を使っており、稼働中のトヨタ自動車の工場2カ所で実証したという。

登録外の端末の持込みを無線の可視化によって検出し、計画外の無線の混雑を抑制すること、それでも発生してしまう突発的な干渉を異種システム協調制御によって回避することで止まらないラインを実証。無線環境のリアルタイム可視化技術の効果の検証は、トヨタ自動車高岡工場で稼働中の組立ラインで実施した。

可視化技術は、管理画面上のフロアマップにアクセスポイントからの電波がどこまで届いているかを可視化。また、事前に登録されていないモバイルルータなどの無線端末は、工場に持ち込まれた際に検出してアラートを表示し、管理者に注意喚起する。建屋全体の可視化に挑戦し、数カ月にわたって効果を検証したところ、電波到達範囲の可視化と登録外端末を検出できることを確認したという。

異種システム協調制御の実環境での機能の検証では、トヨタ自動車元町工場にてSRF無線プラットフォームの実証実験を実施した。このプラットフォームは、他の無線システムとの協調制御をし、常に無線の環境を監視して適切な通信経路や通信方式を動的に選定する。

製造ラインで使われているものと同じ周波数帯の試験用通信を発生させ、試験用通信の遅延を評価したところ、Field Manager(管理サーバー)からの制御によって適切な通信経路に切り替えることで、遅延を大幅に低減。100ms以下の遅延を満たす割合を100%に向上できることを確認したという。

SRF無線プラットフォームの実証実験結果(上図:遅延の時間変化、下図:遅延の発生頻度)

無線化が検討されている製造システムの8割以上は、100ms以下の遅延の保証によって安定稼働させることができる。この実験結果により、実際の製造ラインに新たに無線アプリケーションを導入した際に、SRF無線プラットフォームを使用することで要求遅延を満足できることを実証したという。今回、稼働中の工場で技術の有効性が確認できたことにより、人と機械の共存する製造現場で、無線通信技術を用いた製造システムの安定稼働が期待される。

トヨタ自動車では今後、製造現場での無線システムの適切な管理のため、他の工場への可視化技術の順次導入を予定している。NICTは、トヨタ自動車の他の工場でも可視化技術の実証実験を継続するとともに、SRFプラットフォームの研究開発を推進し、工場での無線システムの安定化技術の実用化を目指す。

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