MIT、太陽熱を使って医療機器を殺菌するシステムを開発

医療機関では、医療機器を滅菌するために飽和蒸気により内部を高温高圧にするオートクレーブを使用する。一般的にオートクレーブの蒸気を発生させるためには、電気や燃料を用いたボイラーが必要だ。しかし、発展途上国の農村部などでは、電力供給の不安定さや高価な燃料費といった問題がある。

MITとインド工科大学の研究チームは、外部電力や燃料を必要とせず、太陽光だけで蒸気を発生させるシステムを開発し、インドのムンバイでプロトタイプの実証実験に成功した。このシステムを利用すれば、約2m2の太陽熱集熱器で、小規模クリニックで一般的に用いられるオートクレーブに必要な電力をまかなうことができるという。

新しいシステムのポイントは、透明なエアロゲルという素材だ。エアロゲルは、シリカを原料とした軽量な発泡体で、ほとんどが空気で満たされている。高い断熱性を持ち、熱損失を約10分の1に抑えることが可能だ。

今回開発したシステムでは、エアロゲルを、既製品の太陽熱温水器の上部に取り付けている。太陽熱温水器は、熱吸収の効率を上げるために黒色にコーティングした銅製の集熱板と、下部のパイプで構成されている。太陽によりプレートが加熱されると、パイプを流れる水も温められる仕組みだ。水は重力によりタンクから供給され、発生した蒸気は筐体上部まで上昇し、別のパイプを通ってオートクレーブまで運ばれる。

エアロゲルによる断熱効果に加えて、集積板の両側にアルミミラーを設置することで、既製品の太陽温熱器に比べてより効率的に太陽熱が利用でき、温水ではなく高温の蒸気を発生することに成功した。

ムンバイでの試験当日は曇っており、晴れの日と比べて日射量は70%しかなかったが、適切な滅菌に必要な30分の間、十分な飽和蒸気を発生することができた。この試験は、約0.26m2という小さなプロトタイプで実施した。研究者によると1〜3m2あれば、クリニックで一般的に使用する卓上オートクレーブに必要な電力を供給できるという。

システム実用化への主な課題は、エアロゲルの製造だ。エアロゲル製造のスケールアップに対する試みも行われているが、今のところ高価な実験室レベルの装置でしか製造できない。しかし、エアロゲル以外の材料は発展途上国でも入手可能で低コストであり、プロトタイプの部品代には38ドルしかかかっていない。エアロゲルが実用化したら、このシステムを現地で製造することも可能だ。

また今回開発した技術は、医療機器の滅菌だけでなく、高温の蒸気を利用している食品加工システムなど、多くの産業で活用できると研究チームは述べている。

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