京都大学とグンゼは2017年2月9日、ヒト ES/iPS細胞の大量培養を可能にする細胞培養基材の開発に成功したと発表した。同基材を用いた細胞培養法は、目的組織細胞への分化誘導に必要な量の細胞を短期間に高効率で増殖できる可能性があり、再生医療などでヒト ES/iPS細胞を実用化する道を拓くことが期待できる。
京都大学とグンゼの研究グループはすでに、従来の培養法に取って代わる手法として、ゼラチンで作製したナノファイバーを用いてヒト ES/iPS細胞を培養する手法を開発していた。だが、ゼラチンナノファイバーはあまりの細さにとても壊れやすく、大量培養には適していなかった。そこで、強度の高いマイクロファイバーと組み合わせることにした。
こうして開発された丈夫な基材を、研究グループは「Fiber-on-Fiber」(ファイバー・オン・ファイバー)と呼んでいる。ファイバー・オン・ファイバーは、その上で細胞を培養したままピンセットなどで持ち上げられる「布」のような培養基材だ。細胞接着が非常に優れているため、非常に少ない細胞数からでも培養を開始できる。折り曲げたり重ねたりもできるため、上手く空間を用いて培養液を効率的に使用することも可能だ。
従来の培養法では、細胞培養液の撹拌に伴うランダムな細胞凝集と細胞ストレスによって、細胞の低品質化や細胞死が起こり、得られる細胞数が減少していた。だが、折り曲げたり重ねたりできるというファイバー・オン・ファイバーの特性を利用すれば、培養液を撹拌する必要がなくなり、細胞の静置培養が可能になる。
静置培養すれば、細胞へのストレスを軽減し、細胞の品質低下や細胞死を防止できる。研究チームは今回、培養液の撹拌機能がついたスピナーフラスコではなく、静置培養に適した細胞培養バックを用い、ヒト ES/iPS細胞を大量培養する実験に取り組んだ。その結果、1週間で細胞数を40〜50倍以上に増殖することに成功したという。
ファイバー・オン・ファイバーは、ヒト ES/iPS細胞からの分化誘導に使用できる可能性がある。また、マイクロファイバーの素材として、生体適合性が高く生分解性もあるポリグリコール酸を使用したため、細胞移植用の基材としての可能性もある。京都大学とグンゼは現在、ファイバー・オン・ファイバーの実用化へ向けた取り組みを進めている。