持続的な長距離量子テレポーテーションに成功――90%超の高忠実度を実現、量子インターネット実現に向けた大きな一歩

Photo: Fermilab

米国エネルギー省のフェルミ国立加速器研究所(FNAL)をはじめとする研究チームが、初めて全長44kmの光ファイバーを用いて、光子量子ビットの持続的な長距離テレポーテーションを実証し、90%超という高い忠実度を実現した。この研究は、FNAL、米AT&T、米カリフォルニア工科大学(Caltech)、米ハーバード大学、NASAジェット推進研究所、カナダのカルガリー大学が共同で行ったもので、研究結果は2020年12月4日付で『PRX Quantum』に掲載された。

量子テレポーテーションは、長距離量子ネットワークを含む多くの量子情報技術にとって不可欠なものだ。量子テレポーテーションとは、ある場所から離れた別の場所へ実体を伴わずに量子の状態のみが転送されることをいう。量子ビットの量子テレポーテーションは、2つ以上の粒子が互いに不可分に結びついている状態である「量子もつれ(量子エンタングルメント)」を用いることで可能になる。もつれ状態にある2つの光の粒子(光子)が物理的に離れた2カ所に1つずつ存在して符号化された情報を共有する場合、光子間の距離に関係なく、符号化された情報のみが一方の光子から他方の光子に転送(テレポート)される。

量子インターネットは、このように量子もつれを利用して、量子ビットに格納した情報を長距離間で共有するネットワークだ。量子インターネットが実現可能となることは、データストレージ、精密センシング、コンピューティングの分野を一変させ、通信の新時代到来を告げるものといえる。

研究チームは、光子量子ビットの持続的な長距離転送実証にあたり、最先端の低ノイズ超伝導ナノワイヤー単一光子検出器(SNSPD)と既製の光学系機器を使用して、全長44kmの光ファイバーネットワークを介して量子ビットをテレポートした。

今回、Caltech量子ネットワーク(CQNET)とFNAL量子ネットワーク(FQNET)それぞれにテレポーテーション実証用のテストベッド環境が構築され、両環境間で量子ビットをテレポートさせることに成功している。このテストベッド環境はほぼ自律的なデータ処理を特徴としており、既存の通信インフラだけでなく、新しく開発された量子処理装置や量子ストレージとも互換性がある。研究者らは、2021年第2四半期までにシステムアップグレードが完了する見込みで、結果はさらに改善される予定だとしている。

FNAL量子科学プログラムの責任者であり、論文の共著者の1人であるPanagiotis Spentzouris氏は、「この実証により、私たちはシカゴ地域の大都市圏量子ネットワーク構築に向けて基礎を築き始めている」と述べた。このネットワークは「Illinois Express Quantum Network(IEQNET)」と呼ばれるもので、FNAL、Caltech、米アルゴンヌ国立研究所、パートナー企業などが協力して設計しているところだ。

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