19世紀の写真技術を使い、伸縮性の変色フィルムを開発

Image: Courtesy of the researchers, edited by MIT News

MITの研究チームが、タッチセンサーや医療用圧力モニター、圧迫包帯、マンマシンインタフェースなどへの応用を目的として、圧力や歪みの付加により色が変化する伸縮性フィルムを開発した。カラー写真を史上始めて実現した19世紀の写真技術の原理を活用し、最新の感光性高分子材料技術とデジタル画像投影技術を用いて、実用的なサイズで高解像度の構造色を実現したものであり、圧力や歪みにより反射光の波長が変化する伸縮性フィルムを製造できる。研究成果が、2022年8月1日に『Nature Materials』誌に公開されている。

研究チームは、圧力や歪みなどの機械的な作用を色の変化に変換できる伸縮性フィルムを追求してきた。特に、高度医療における圧力や筋肉量のモニター、圧迫包帯や治療状況に応じて変色する包帯などへの応用に有効と考え、発色に関して化学染料を用いるのではなく、材料の微細構造に由来する構造色に注目した。構造色は、自然界においては蝶やオウムの羽根の色を変化させるもので、2つの光線の干渉を利用して三次元画像を実現するホログラフィーにも活用されている。研究チームは、伸縮性フィルムにおいて構造色を実現することを追求してきたが、高解像度に必要なナノスケール構造を持つ小さなサンプルは作製できても、実用に充分な大きさのサンプルについてはナノスケールの構造制御が難しく実現に至っていなかった。

そして思考錯誤を繰り返す過程で、1891年にフランスのGabriel Lippmannにより発明された史上初のカラー写真技術に辿り着いた。これは感光性粒子から構成される透明なエマルジョン薄膜の後面に反射鏡を置くことによって、入射光と反射光の干渉で粒子構造が変化し、現像後は入射光の波長だけを反射するようになり、カラー画像が固定されるというもので、1908年にノーベル物理学賞を受賞している。このカラー写真技術は、エマルジョンの作製および感光に長時間を要することから歴史の中で埋没してしまったが、研究チームはホログラフィーと同様に、材料中の構造色を利用していることに注目し、最新の感光性高分子材料とデジタル画像投影技術を駆使して、伸縮性フィルムに構造色を実現することにチャレンジした。

研究チームは、ホログラフィー用の感光性エラストマーフィルムをアルミシートの反射鏡面に接着し、デジタル画像プロジェクターにより感光させた。感光性エラストマーは応答性が非常に高く、数分以内で構造色を実現できた。鏡から剥がして弾性シリコーン基板に貼り付けたフィルムを引っ張ると、ナノスケール構造が変化して異なる波長を反射し、例えば赤から青に変化することが確認された。また、様々な物体を赤色のフィルムに押し付けると、緑色の高解像度の刻印が形成され、例えばイチゴの種や指紋を刻印することもできた。更に、感光させる際にフィルムを入射光に対して一定角度で傾斜させることにより、反射光を赤外領域に変化させて画像を隠し、引っ張ると赤色の画像を再生でき「メッセージをエンコード化できる」と、研究チームは期待する。

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Engineers repurpose 19th-century photography technique to make stretchy, color-changing films

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