世界最小の原子メモリユニットを開発

米テキサス大学オースティン校は、2020年11月19日、世界最小の原子メモリユニットを開発したと発表した。断面積をわずか1nm2(1平方ナノメートル)にまで縮小したという。研究成果は、『Nature Nanotechnology』に2020年11月9日付で発表されている。

Deji Akinwande教授らが開発したメモリデバイスは、メモリ分野で研究が盛んに行われている「メモリスタ(memristor)」に分類されるものだ。電界によって2端子デバイスの抵抗状態が切り替わる不揮発性抵抗スイッチング現象に基づく。従来のゲートとして知られる中央の3つ目の端子を必要としないことから、通常のメモリデバイスよりもデバイス自体を小さく作製でき、より多くの記憶容量を持つことができる。

しかし、薄さがナノメートルレベルの絶縁層では、漏れ電流が原因で不揮発性抵抗スイッチングは観測できないと長らく考えられてきた。研究グループは、先行研究において、遷移金属ジカルコゲナイドの二次元単分子膜や六方晶窒化ホウ素の薄膜を用いたサンドイッチ構造のメモリデバイスを開発し、「アトムリスタ(atomristor)」と名付けた。単原子層のアトムリスタは、発表当時、世界で最も薄いメモリデバイスだったという。今回の研究では、二硫化モリブデン(MoS2)のアトムリスタで不揮発性抵抗スイッチング現象が観察された。

今回、研究者らは、原子シートにおけるスイッチングメカニズムの起源解明を試みた。研究では単層MoS2をモデル系に使用し、原子イメージングと原子分光法により、硫黄空孔への金属置換が抵抗値の不揮発性変化をもたらすことを明らかにした。薄膜層上のナノスケールの空孔に金属の単原子が入り込むと材料の導電性が部分的に変化して抵抗値が変わるという。この変化をメモリとして利用できるようだ。原子薄膜レベルでのスイッチングメカニズムはMoS2だけでなく、他の多くの原子薄膜材料でも応用できると考えられている。

研究者らは、断面積をわずか1nm2まで縮小した世界一小さなメモリデバイスも作製したという。開発されたデバイスは、1cm2当たり約25テラビットの記憶容量を持つ見込みだ。市販のフラッシュメモリと比較した場合、1層あたりの記憶密度が100倍以上も高いことになる。

不揮発性抵抗スイッチング現象の原子レベルでの理解が進めば、単一欠陥まで対象とする精密な欠陥工学に新たな方向性を切り開くことになり、超高密度メモリ、ニューロモーフィック・コンピューティング、高周波通信システムなどに応用できる最小のメモリスタ実現に近づくことになるだろう。

関連リンク

World’s Smallest Atom-Memory Unit Created
Observation of single-defect memristor in an MoS2 atomic sheet

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