電子放出のコストを劇的に下げる光電陰極を開発

Image courtesy A. Mohite/Rice University

米ライス大学とロスアラモス国立研究所の共同研究チームが、ハライドペロブスカイト薄膜を利用して、効率的に光を自由電子に変換できる低コスト光電陰極を作製する技術を考案した。低コストな製造方法で容易にスケールアップできるスピンコーティング技術を用いて、実用化されている化合物半導体製光電陰極よりも長寿命、かつ可視領域および紫外領域の両方の光照射によって電子放出することができる。光電子増倍管や電子顕微鏡、電子ビーム加速器、暗視ゴーグルや低照度カメラなどの分野において、自由電子放出のコストを劇的に下げることが期待されるもので、研究成果が2021年1月29日、『Nature Communications』誌において公開された。

光電陰極はアインシュタインが発見した光電効果に従って動作し、光が照射されると自由電子を放出する。光電子増倍管、光検出器、粒子加速器、イメージ増強管などの広汎な分野で利用されているが、従来の実用化技術においては、ガリウムやセレン、カドミウム、テルルなど、稀少で非常に高価な材料を必要とし、複雑なプロセスにより製造されている。研究チームは、安価で高効率の太陽電池として近年活発に研究開発が進められているハライドペロブスカイトに注目し、低コストでスケールアップできて広く実用化しているスピンコーティング法による光電陰極の創成にチャレンジした。

研究チームは、溶液処理されたハライドペロブスカイトを、アルゴン雰囲気でスピンコーティングし、続いて高真空中で加熱処理して薄膜結晶を得たが、研究チームによれば「光電効果では、結晶の完全性が重要であり、たとえ空孔のような微小欠陥であっても、生成した自由電子が“ポテンシャル井戸”として捕捉されてしまう結果、自由電子が失われて量子変換効率が低下する」という問題がある。そのため、材料成分と表面処理を様々な方法で制御し、量子変換効率を最大化する適正な条件を見つける努力を重ねた。特にハライドペロブスカイト薄膜の上に、セシウムの単層薄膜を積層することにより、電子放出の表面エネルギー障壁を低下させることに成功。実用化されているガリウムひ素光電陰極よりは劣るものの、2.2%の量子変換効率を得ることができた。また、可視領域および紫外領域の両方において、光電効果を発揮するよう調節することもできた。

更に、ハライドペロブスカイト光電陰極は「ガリウムひ素光電陰極よりも長い25時間の寿命をもち、劣化後の再生処理が従来材料に比べて容易だ」と、研究チームは語る。未だ実証研究の段階であり、量子変換効率をガリウムひ素光電陰極の水準に近づけるため、欠陥密度の低い高品質の結晶を作製する努力が必要だが、スピンコーティング法は、用いる原料が豊富で安価、製造プロセスが単純で低コストであるうえ、大面積の製造も可能なため経済性のメリットは非常に大きいと、期待を見せている。

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Research could dramatically lower cost of electron sources

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