- 2022-7-6
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東京農工大学は2022年7月1日、同大学大学院工学府応用化学専攻、同大学院工学研究院応用化学部門および東京都立大学大学院理学研究科の研究グループが、ポリエステルを単量体に戻す触媒反応を開発したと発表した。廃プラスチック問題の解決に寄与することが期待される。
ポリエステルを含めたプラスチックの多くは自然界での分解が難しく、プラスチックごみが大量に海洋に流れ込むことが社会問題となっている。
ペットボトルに用いるポリエチレンテレフタレート(PET)は、大量の強いアルカリ性により分解できるものの、分解後には大量の酸で中和する必要がある。触媒反応では、リチウムメトキシドを用いた温和な条件下で分解できることが報告されているが、大量の炭酸ジメチル添加剤を要する点が課題となる。
その他、水素ガスを用いた触媒分解では265˚Cの高温が必要となる。また、加水分解酵素による生分解では、大量の緩衝液を用いて酸性度を調節し、事前にペットボトルを溶解する工程や酸性度を一定に保つ必要がある。
以上のような状況から、添加剤を用いずに効率的に分解できる手法が求められていた。
同研究グループは今回、ジカルボン酸と呼ばれる両端にカルボン酸が結合した単量体とジオールと呼ばれる両端がアルコールである単量体の反応によりポリエステルが合成され、エステル構造と呼ばれる構造が繰り返されている点に着目した。
メタノールなどの低分子量のアルコールにポリエステルのエステル構造を次々と交換していくことが可能であれば、最終的にはポリエステル原料のカルボン酸のメチルエステルとジオールとに分解できることとなる。
このような反応は、トランスエステル化反応と呼ばれる。エステル構造を有する低分子化合物では効率的な反応が周知されていたものの、塩基や添加剤なしにポリエステルを効率的に分解できる触媒はこれまで見い出されていなかった。
同研究グループが、多く使用されているポリエステルの一種であるポリブチレンスクシネート(PBS)を用いて、さまざまな条件下で多くの触媒を試したところ、希土類元素のランタンの錯体が触媒として有効であることが判明した。
メタノール中、触媒濃度1mol%、反応温度90℃、反応時間4時間といった条件下において、定量的にポリエステル原料のスクシン酸ジメチル(コハク酸ジメチル)と1,4-ブタンジオールに分解できることが明らかになっている。
10gのスケールでも125mlのメタノール中、触媒濃度1mol%、反応温度90℃、反応時間4時間で定量的に分解できたほか、得られたオイルをスクシン酸ジメチルと1,4-ブタンジオールに抽出分離することも可能となった。これらを再び重合し、メタノールを放出しながらポリエステルに戻すこともできる。
また、ポリアジピン酸エチレンを用いた場合でも、同じ反応条件で定量的にアジピン酸ジメチルとエチレングリコールに分解できた。
さらに、ペットボトル材料のポリエチレンテレフタレート(PET)は、触媒濃度1mol%、反応温度150℃、反応時間4時間で定量的にテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに、家電製品などにエンジニアリングプラスチックとして使用されるポリブチレンテレフタレート(PBT)は同条件下で定量的にテレフタル酸ジメチルと1,4-ブタンジオールに分解できた。
同研究グループは、実際に市販のペットボトルを用いた場合でも、同一条件下で単量体に完全に分解できることを実証した。安価な触媒や溶媒のみで分解できるほか、空気中で反応可能で、実験室レベルでは大きなスケールでも完全分解できるなど、実用性の高さが特長となっている。
同研究グループは今後、より安価かつ温和な条件で分解でき、経済的にも実用可能な分解反応の構築を図る。また、触媒活性種の解明を進め、さらに活性の高い触媒を開発する。
プラスチックは、ポリエステルなど縮合反応と呼ばれる反応によって合成されるものと、ポリエチレンなど付加反応と呼ばれる反応によって合成されるものの2種類に分類できる。同研究グループは、触媒系を改良することで、まずは縮合反応により合成されるプラスチックの分解の研究を進める。
さらに、分解前のプラスチックよりも価値ある化学物質を生み出す創造的分解の研究も進めるとした。