極小マイクロチップを創成する結晶制御技術を開発――グラフェンの「ナノ折り紙」

グラフェンのような2D材料中に、白線で示される構造的キンクの導入により、電子特性を制御できるナノマイクロチップが創成できる。

英サセックス大学の研究チームが、グラフェンや他の2D材料に、ナノスケールの線状欠陥を導入することで電荷キャリア密度や電子バンド構造を変化させ、電子特性を制御できる可能性を発見した。2D材料における「ナノ折り紙」とも言える新しい結晶制御技術を活用することによって、従来のマイクロチップより100倍小さいナノマイクロチップを創成する可能性があり、将来的にはコンピューターやスマートフォンで数千倍の高速性能を実現する次世代技術に発展できると期待している。研究成果が、2021年1月25日に『ACS Nano』誌に公開されている。

グラフェンを始めとする2D材料は、高い電気伝導性や熱伝導性、柔軟性、高強度、高剛性、そして特異な光学特性などを備えることから、活発な研究開発が進められている。その中で、2D材料に機械的歪みを加えることで相遷移を誘発し、電気的または光学的な特性の変化をもたらす「ストレイントロニクス(歪み電子工学)」が注目されている。既に、スタンフォード大学の研究チームが、グラフェンを用いた圧電材料の作製に成功しており、これまでになかった手法で、エレクトロニクス技術を変革すると期待されている。

今回サセックス大学の研究チームは、グラフェンおよび二硫化モリブデンの2D材料における、皺やキンクなどナノスケールの線状欠陥に注目し、これらが発生する局所的な歪みが電子特性や局所的な機械的性質に与える影響について、原子間力顕微鏡や密度汎関数理論を用いて解析した。その結果、このような線状欠陥による歪みは、グラフェンにおいて局所的な圧縮応力を生じ電荷キャリア密度を増加する一方で、二硫化モリブデンにおいては引張応力を発生して電荷キャリア密度を減少させることを明らかにした。

同大数学物理科学科のAlan Dalton教授は、「2D材料に、皺の一種でありナノ折り紙のようなキンクを機械的に導入することによって、電荷キャリア密度や電子バンド構造を変化させ、トランジスタのような振る舞いを生じさせることができる。これは、ナノスケールのキンク構造を2D材料に導入することで、従来のマイクロチップより100倍小さい、ナノマイクロチップを創成できることを意味する」と、説明する。

ストレイントロニクスを活用したナノ材料によって、コンピューターチップを小さく高速にすることができ、将来的には従来よりも数千倍速いコンピューターやスマートフォンの開発も可能になると研究チームは期待する。また、このナノスケール技術により、多様なデバイス内部により多くのチップを組込むスペースを生むことができる。更に、従来の半導体製造のようにドーピング元素を添加する必要がなく、シンプルにキンクを導入するだけなので、高温ではなく室温プロセスによって製造可能であり、エネルギー消費が小さく環境に優しく持続可能な技術でもあるとも考えている。

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