IoT関連の転職市場の状況は――DXの流れを生き抜けるエンジニアとは[今、機械系エンジニアに求められているもの]

メイテックネクスト 代表取締役社長 河辺真典氏

~IoT技術によって製造業はどう変わっていくのか。機械系エンジニアに何が求められるのか~

長年日本の基幹産業だった、自動車産業や重工業を中心とした製造業が、DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れの中で、研究開発や製造部門を中心に大きな変革を生み出そうとしています。今回の連載では、エンジニア専門の転職支援会社メイテックネクストへの取材を通じて、IoTの登場によって変わりつつある産業構造について、特に機械系エンジニアの転職事情を中心に、全3回の連載としてご紹介しています。

第1回目は「IoT技術で変革を迎えつつある製造業の現状」、第2回目は「IoTデバイスにみる事業モデルの変化」と題して、IoT領域で機械系エンジニアの活躍の場を探っています。最終回となる本記事では、具体的な求人例と応募状況を元に、IoT時代を迎えた機械系エンジニアの歩むべき方向性について、メイテックネクスト 代表取締役社長の河辺真典氏にお話を伺いました。(執筆:後藤銀河、撮影:編集部)

スマートロックでも医療ロボットでも、技術の要はソフトウェアにある

――製造業からの求人がIT系にシフトしているというのは、業界全体の流れとして捉えていいのでしょうか。

[河辺社長]前回はスマートロックを一例として取り上げましたが、今回は「手術ロボット」を例に見てみます。手術ロボットであれば、縫合作業をどのようにスムーズにこなせるのか、という技術課題があります。その実現には情報工学も必要になり、機械工学の知識だけではどうしようもありません。

手術ロボットの求人はありますが、あくまで「ロボットで手術をする」ことがゴールであって、そのロボット自体を完成させることは目的ではありません。画像処理技術と制御技術、そして機械工学を組み合わせて「ロボットで手術を実現する」ことが究極のゴールで、ロボットの機械的な性能を突き詰めることがゴールではないのです。医療機器も機械系エンジニアに人気のある業界ですが、DXの流れの影響を受けると見ています。今後、モノづくりを担う部品メーカーやEMSは残るかもしれませんが、結局のところ儲けの源泉はコトの達成という目的に対してのゴールであり、モノづくり自体ではないでしょう。

当社に頂いている、ある自動車メーカーの求人の9割がIT、ソフトウェア関連になっているという話をしました。同じような流れとして、トヨタ系アイシングループではこれまで、一定の規模と技術水準に達した事業を戦略的に分社化していましたが、2020年4月にアイシン精機とアイシンAWを経営統合することになりました。このトランスミッションとボディ系の機械系部品を作っている会社を統合するという動きも、CASEへの対応という変革を乗り切るための経営判断の一環です。

サプライヤーで働く機械系エンジニアには、この先の自動車業界はどうなるのだろうという不安に思う気持ちがあるようです。しかし、例に出した自動車メーカーが出している1割の機械系車両開発関連の求人、この1割しかない求人に応募が殺到しているかというと、実はほとんど応募がありません。この自動車メーカーが直面している厳しい現状はあるにしても、従来サプライヤーに席を置くエンジニアであれば、自分も発注側に行きたい、車を作りたい、という発想があったのですが、ずいぶん変わってきています。

――IoTのモノづくりをEMSが支えているというお話がありましたが、やはり機械系はEMSへ転職することが多いのですか?

[河辺社長]実は、製造技術の革新を起こしているEMS系の会社であっても、あまり人気があるとは言えません。例えば、部品メーカーのミスミは、数多くの製品を取り揃えていて、ユーザーのニーズに合わせて組み合わせることで、実に200万垓(がい、1劾=10の20乗)というレベルの部品種類に対応して即納できるという、人間が数えられないほどの品目が製造可能な製造革新を起こしています。製造受託するEMSにとって、製造の仕組みが良い、製品品質が高い、というのは確かなゴールだと思いますし、もっと多くの機械系エンジニアに興味を持ってもらいたいと感じています。

IoT企業の中で機械系エンジニアとしてやっていくということ

――――では、機械系エンジニアの活躍の場はどこにあるとお考えですか?

[河辺社長]IoTという世界観の中であれば、データマイニングやAIというサービスで儲ける、課金モデルやサブスクリプションで儲ける、あるいは金融業界で儲けようとしている人たちにジョインし、インターネットとリアルをつなぐデバイス開発に従事するエンジニアとして生き残ることでしょうか。

IoTをリアルと接続する部分は、機械系エンジニアでなければ実現できない部分

[河辺社長]今この瞬間、センシングデバイスが必要なんだ、このサービスを実現するロボットが必要なんだというニーズを、把握し続けるのが機械系エンジニアとして生きる道でしょう。ただ、IoT領域の企業はその機能を自社で保有しようとしていませんから、自然とEMSか技術派遣かという形になっていくと考えますが、これも機械系エンジニアにとっては、IoTの世界へと飛び込むチャンスだとも言えるでしょう。

IoT企業に身を置こうとする場合、入社する前にマインドチェンジすべきことがあります。それは、IoT企業で機械系としての経験を活かして貢献するということは、機械的な性能を追求することがゴールではなく、「このサービスモデルでどう稼ぐのか」を考えることだということです。この認識があれば、IoT業界への転職は、ものすごく良い転職になると思います。これを機械系エンジニアに伝えたいですね。

IoTベンチャーも量産化の壁といわれるハードルを越せずに、消えてしまうところは多い。そこはモノづくりが分かるエンジニアがいないと、それほど簡単にはいかないということです。

それにデータマイニングのためには大量のデータが必要ですから、一気に大量に広めたいというニーズがある。本来1個10万円で売りたいとしても、サブスクリプションで安定収入を得られるのであれば、本体無料でもいいからサービスは月額500円としたほうがいい。そうなると、量産規模を上げるしかありませんが、これがベンチャーにとって、いきなりハードルが高くなるわけです。やりたいことと、出来ることのギャップが広がってしまうのが、失敗の要因になります。

――スマートロックのように、モーターとアクチュエータを組み合わせたデバイスなど、ハードウェアエンジニアとして活躍できる場があるかどうかを見極める必要があるということでしょうか?

[河辺社長]大気中に飛び交う微弱な電波を捉えて発電し、センシングのためのデータだけを送るようなIoTデバイスでも、データを得るためには必要な場所へ設置する必要があります。単なるセンシングデバイスでも筐体は必要だし、モーターなどのアクチュエータが必要な場合はその中に機構が必要で、そのためには機械系エンジニアが必要な要素が多分に含まれています。

――活躍の場はありそうですが、実際のトレンドはそうなっていないとしたら、それはなぜでしょうか?

[河辺社長]繰り返しになりますが、エンジニアからはIoTベンチャーにリスクを感じたり、担当領域がその会社の本流でないという点がひっかかるようです。それに取り扱うハードウェアにさほど新鮮味がないということもあるでしょう。

自分が何をしたいのかを明確に持つこと

――スタートアップとして起業したとして、これから30年間やっていこうと考えるよりも、ゆくゆくは株式売却を機に引退を想定している起業家も多いと思います。従来のように入社して20年、30年、そこで働くという意識ではなく、5年でやりきったら次の会社に移るといった考え方で転職先をみる必要があるということでしょうか?

[河辺社長]その通りだと思います。いわゆるIT系と製造業では職業観が違うわけで、IT、情報系企業の経験者と製造業の経験者での転職回数を比べると、ざっくりですが2:1くらいになります。

IoTで利益を出そうとしている経営者たちに対して、インターネットとリアルとつなぐハードの部分や物理現象は自分に任せろ、という技術とノウハウをもった機械系エンジニアとして、様々な企業を渡り歩くのか。それともIoTのサービスモデル開発側に回って、例え創業者がイグジットしても、違う会社でそのスキルを活かせるようにするか。IoT企業での働き方に合わせて、自分がどうしたいかを考え、柔軟に対応していくことが必要です。

もちろんIoTデバイスであっても、材料開発をするとか、形状の最適化をするとか、難易度の高い材料を加工するといったプロセスは、トライアンドエラーが必要で、そうした部分が残っているのは事実です。ただ、多くは量産のために必要なものであり、コンシューマーに対する直接的な価値を生むものではありません。

今後5Gが普及することで、さらに多様なサービスが登場するでしょう。リアルと接点をもつデバイスが、技術の発展とともにどんどん出てくるでしょうし、モノづくり自体がなくなるわけではありません。先ほど述べたように、機械系エンジニアにも扉が開いているわけで、是非それをチャンスだと捉えて、積極的にIoT領域にチャレンジして欲しいと思います。


河辺 真典(メイテックネクスト 代表取締役社長)
生産技術エンジニアとして5年、リクルートエージェントでキャリアコンサルタントとして8年の勤務経験あり。
弊社のコンサルタントは、転職支援のノウハウと業界・技術知識の両方に長けております。
その上で、単に転職先を決めるだけでなく、
転職先でご活躍いただく「失敗しない転職」をご支援するように心がけております。

取材協力

株式会社メイテックネクスト


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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