IoT技術で変革を迎えつつある製造業の現状――DXの流れを生き抜けるエンジニアとは[今、機械系エンジニアに求められているもの]

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メイテックネクスト 代表取締役社長 河辺真典氏

~IoT技術によって製造業はどう変わっていくのか。機械系エンジニアに何が求められるのか~

ニュースの中でIoTというキーワードに対して、「Internet of Things:モノのインターネット」という注釈をつけることも少なくなる程には、IoTは当たり前の技術になりつつあります。長年日本の産業構造を支えてきた製造業にも、DX(デジタルトランスフォーメーション)という大きな変化の流れが押し寄せ、EV化やMaaS(※1) に揺れる自動車業界を始めとして、多くの業界で事業の主軸の見直しが迫られています。

(※1)Mobility as a Service:自家用車以外のすべての交通手段をIT技術でクラウド化し、一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念

こうした変革の時代を迎える中、これまで製造業の花形プレーヤーだった機械系、電気系のエンジニアの活躍の場にも変化は起きているのでしょうか。本記事では、エンジニア専門の転職支援会社メイテックネクストへの取材を通じて、IoTの登場によって変わりつつある産業構造について、特に機械系エンジニアの転職事情を中心にご紹介していきます。

第1回目となる本記事では、IoTやDXの登場によって変わりつつある製造業のビジネスモデルについて、メイテックネクスト 代表取締役社長の河辺真典氏にお話を伺いました。(執筆:後藤銀河、撮影:編集部)

IT系を中心として増加傾向にある大学発ベンチャー企業

――IoT技術やDXの急拡大に伴い、IT系エンジニアへの求人が増えているというニュースがよく聞かれます。「fabcross forエンジニア」の記事でも、AIをはじめとするIT分野の取材が増えてきていますが、そうした中でも既存の製造業における変革を推進するための取り組みや、まったく新しい視点での事業開発への取り組みも多く聞かれるようになりました。これはIoTが製造業における従来型の産業構造にも少なからず影響を与えていると言ってもよいのでしょうか。

[河辺社長]製造業への影響について、まずは新規技術の研究開発状況という視点で、大学発ベンチャーの状況を見てみたいと思います。この資料は、2020年5月に経済産業省がまとめたものですが、大学発ベンチャー企業数の推移としては、2018年度調査時点の2,278社から、2019年度調査では2,566社と288社増加しました。これは過去最高の増加数であり、大学で生まれた研究成果や特許を新たに事業化する動きや、学生が企業に就職することなく、自ら起業する流れが起きていることが見えてきます。

2004年には国立大学が法人化して、研究を継続するためには自ら持っている技術で資金を調達しなければならないという流れがありました。政府も国策として新しい技術の研究開発を支援していることも、大学発ベンチャーが増加した要因の一つでしょう。

[河辺社長]次に、大学発ベンチャー企業の内訳ですが、バイオ・ヘルスケア・医療機器の割合が多く、次いでIT関連での起業が多いことが分かります。これはIoT製品にとって使いやすい通信技術の登場とスマートフォン、インターネットの更なる普及、新規事業をマネタイズしやすい課金サービス(サブスクリプション)の登場に加え、経済の視点がDXへとシフトしたことで、新規事業を起こしやすくなっていると言えるでしょう。

[河辺社長]このような環境下においてエンジニアの転職市場を俯瞰した時、世の中がモノよりコト、つまり製品ではなくサービスで儲けるためにインターネット上でデータを集め、ユーザーとつながるサービスを構築し、課金システムでマネタイズする方向へ舵を切っていることが見えてきます。私は、この世の中の変化の中で機械系エンジニアが取り残されることを危惧しています。

製造業におけるDX――モノからコトへのシフト

[河辺社長]総合モーターメーカーとして知られている日本電産の戦略を見ると、そうした変化の一端が感じられるように思います。同社が推進するEVプラットフォームビジネスを紹介するWEBサイトには、「EV時代には自動車もパソコンなどと同じように、各デバイスメーカーが供給するパーツを組み上げて、完成させたものを自社製品として販売するようになると予想されます。そうなると、既存の車両メーカーにとっても、ハードの開発よりもソフトの部分で差別化を図るようになることは間違いなく、プラットフォームは購入して、ソフトの部分で勝負しようというメーカーが出てきても、不思議ではありません。」と記載されています。

これを極端に解釈すれば、これからのEV時代ではシャシーからモーターまで部品メーカーが供給するようになるので、自動車メーカーは完成品だけ作ればよい。新規メーカーの参入障壁も下がり、製品の差別化はハードウェアではなくソフトウェアになる、という表現だと言えると思います。日本のモノづくりの頂点に立つ自動車産業が、極端な電動化推進の中で、大きな変革を迫られているとも言えるでしょう。

これは従来の製造業にとって簡単に対応できるようなものではなく、相当の困難を伴うわけで、実際に日本自動車工業会会長を務める、トヨタ自動車株式会社の豊田章男社長は、菅義偉内閣総理大臣が宣言した「2030年代半ばにガソリン車の新車販売をなくす」という「2050年カーボンニュートラル」に対し、EV全面移行を実現するためには「原子力発電所で10基、火力発電所で20基の増設が必要で、投資コストは14兆から37兆円もかかる」との試算を挙げて、難色を示しています。

自動車産業という、機械系エンジニアにとって大きな活躍のフィールドですら、モノづくりよりもCASE(※3)やMaaSで儲けるようになる、という世界観が見えています。こうした世界観の中で、機械系エンジニアの存在意義はどこにあるのか、ベンチャー企業の動き、IoTの動きとどう絡んでくるのかを注視する必要があると感じています。

(※3)独ダイムラーのツェッチェ前CEOが提唱した「Connected:コネクティッド」、「Autonomous:自動化」、「Shared:シェアリング」、「Electric:電動化」という今後の自動車産業に必要な技術領域

CASEやMaaSが事業の主軸となる世界で、機械系エンジニアの活躍の場も変わりつつある

CASEへの対応で自動車業界の求人が大きく変わる

――自動車産業は、特に研究開発や製造を主軸として、機械系や電気系のエンジニアが中心となって活躍していたといっても過言ではないと思いますが、そうした状況も変わりつつあるということでしょうか?

[河辺社長]一例として、当社に頂いている、ある自動車メーカーの求人票を見ると、およそ9割がIT、ソフトウェア関連で、車両設計関連の求人は実に1割程度に留まっています。求人は、その企業が注力しようとしている事業領域とそこで不足している人材を示していますから、CASEへのシフトは明確です。

――電気系、機械系の理系学生はかなりの人数がいると思いますが、新卒採用市場にも変化が起きているのでしょうか?これまでは自動車や重電メーカーの人気は、一時期ほどではないにしても、高かったと思います。

[河辺社長]少し前に、トヨタ自動車が大学生・院生の新卒採用で、学校推薦を全廃したという報道がありましたが、その背景にはこうした変化の現れがあるのかもしれません。数年前までは、できるだけ先に人材を確保しようとしてOBによる大学訪問を行ったり、就職説明会を前倒ししたり、という動きもありました。それがこのところのコロナ禍でピタリと止まり、私たちが思っている以上にDXへのシフトが進んでいると思います。今は各社とも情報工学を勉強している人材を何とか獲得しようとしており、場合によっては従来の新卒初任給制度も取り払わないといけないような状況にあります。大学側から学生を推薦するという制度も、需要と供給のバランスが取れているから成立していたわけで、企業側からみれば採用に関しては、募集要件と採用数を大きく変更せざるを得なくなったといえるでしょう。

――自動車メーカーなど製造業における、IoT、IT関連技術を持つ人材の比重が高まっていると?

[河辺社長]IoTは一つのツールで、モノがインターネットにつながることでサービス課金できるというのがビジネスの流れです。従来の重工業の中心とも言える自動車業界ですら、既存のビジネスモデルを「軽量化」していると言えます。冒頭で紹介したように、最軽量のベンチャー企業が増えてきて、重厚長大からライトな産業へとシフトしています。こうした中で、機械系エンジニアの活躍の場はどこにあると言えるでしょうか。

――次回は「IoTデバイスに見る事業モデルの変化」をテーマにご紹介いたします。

第2回目:IoTデバイスにみる事業モデルの変化――DXの流れを生き抜けるエンジニアとは
第3回目:IoT関連の転職市場の状況は――DXの流れを生き抜けるエンジニアとは


河辺 真典(メイテックネクスト 代表取締役社長)
生産技術エンジニアとして5年、リクルートエージェントでキャリアコンサルタントとして8年の勤務経験あり。
弊社のコンサルタントは、転職支援のノウハウと業界・技術知識の両方に長けております。
その上で、単に転職先を決めるだけでなく、
転職先でご活躍いただく「失敗しない転職」をご支援するように心がけております。

取材協力

株式会社メイテックネクスト


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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