反物質の謎に迫る――レーザー技術で反物質原子の減速と冷却に成功

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Credit: Takamasa Momose

欧州粒子物理研究所CERNの粒子加速器を活用した、カナダのブリティッシュコロンビア大学を含む国際共同研究チームが、レーザー冷却技術を使って反物質原子の運動を減速することにより、反物質の温度をほぼ絶対零度に冷却することに成功した。反物質の光吸収スペクトルが極めてシャープになるなど、反物質に関する実験環境を高度精度化することが可能になり、これまで謎とされてきた「なぜ宇宙が通常物質により構成され、反物質が同等に存在しないのか?」「静止状態に近い反物質が、重力に対してどう反応するか?」「反物質原子のみで構成される分子は、どのような特徴を持つか?」などの疑問が解明されることが期待される。世界各国の多くの研究者が関わったこの研究の成果が、2021年3月31日の『Nature』誌に公開されている。

反物質原子は、通常の物質原子と同じ質量とスピンを持つが、原子を構成する素粒子が全く逆の電荷を持つ。即ち、反水素原子は、マイナスの電荷を持つ反陽子1個と、プラスの電荷を持つ陽電子1個から構成される。物質と反物質が衝突などで至近距離に達すると互いに消滅するため、反物質を現実世界で創成し制御することは極めて難しい。

このような反物質の存在は、量子力学によって早くから理論的に予測されていたが、20世紀半ばに宇宙線測定や粒子加速器の実験によって、陽電子や反陽子が発見されるに至った。その後、CERNの粒子加速器において11個の反水素原子が創成され、光速の9/10の速度で10m長さの真空管内を運動する反水素原子が、ナノ秒の数分の1の時間存在したことが確認された。現在、CERNでは、反水素原子の運動を減速して閉じ込めることのできる磁場トラップ配置によって、日常的に1000個の反水素原子を何時間も閉じ込めることができる。しかしながら、反水素原子は依然として時速300kmの速度でランダム運動しており、高精度の実験や測定を行うには、更に減速する必要がある。

国際共同研究チームは、原子が波動性を持つまで減速されることを通じて超伝導や超流動の研究を発展させ、多数のノーベル賞研究に繋がった「レーザーによる原子冷却(レーザー冷却)」を反物質原子にも適用することにチャレンジした。紫外線波長121.6nmを持つレーザーに向かって運動する反水素原子に対しては、ドップラー効果によりレーザー波長が短波長側にシフトし、反水素原子の光吸収波長に合致させて吸収させることにより減速させる一方、レーザーから遠ざかる反水素原子に対しては、単にレーザー波長が長波長側にシフトするだけで何の影響も与えない。その結果、反水素原子雲の温度を低下させるとともに、数十の反水素原子の運動を時速50km以下まで減速させることに成功した。反水素原子の運動速度が小さいので、光吸収スペクトルの線幅が4倍もシャープになることも確認している。

研究チームは今後、更に効率的な冷却を実現するために、レーザー出力を増大して、波長121.6nmのレーザー光線の強度を高める計画だ。

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