AIによる社会課題の解決を積み重ねながら「知能」の解明を目指す――エクサウィザーズ 浅谷学嗣氏

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AIの活用による社会課題の解決を目指す株式会社エクサウィザーズで、技術推進室室長とAIエンジニアリングフェローを務める浅谷学嗣氏。大学時代に教授から問われた「知能とは何か」に対する答えを探り続けながら、AIをどう使うべきか、人とAIはどう付き合うべきかという疑問に正面から向き合い、AIを活用した最先端のソリューションやプロダクトを生み出している。(執筆:杉本恭子、写真提供:株式会社エクサウィザーズ)

――まず御社の特徴を教えて下さい。

当社は「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」ことをミッションとして掲げています。2016年設立の若い会社ですが、専門分野をあえて絞らず、ロボット・介護・医療・HR・金融・カメラなど、幅広い分野の課題解決に取り組んでいることが特徴です。

その理由は、AIはある分野に適応した技術が、他の分野でも別の形で適応できるケースが多いことです。こうしたAIの特性を活かすべく、応用可能となる基礎技術を向上させ、幅広い分野への展開に取り組んでいます。

一方で、様々な分野の社会課題を解決するためには、各分野の専門的な知識も必要となるため、当社の社員には業界の専門家も多数在籍しており、エンジニアと専門家がチームを組んでプロジェクトを進めています。私たちが目指しているのは、「エクサウィザーズに相談すれば課題を解決してくれる」と思っていただける、「よろず相談所」のようなポジションとも言えますね。

――浅谷さんは、技術推進室室長でAIエンジニアリングフェローというお立場ですが、どのような業務を担当されているのですか?

現在当社ではロボットの技術開発に取り組んでおり、私の仕事もロボットを用いたAIソリューションやプロダクトの開発がメインです。技術開発の方針を決めつつ、様々な企業と連携して、複数のプロジェクトにも関わり、技術的なアドバイスや実装を行っています。

プロジェクトの例としては、キユーピー株式会社が取り組んでいる惣菜盛り付け作業のロボット化プロジェクトに参画していました。これは、一般社団法人日本機械工業連合会が公募した「令和2年度革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に採択されたもので、ロボットには難易度が高い、惣菜の自動盛りつけの実現などに取り組んでいます。

実は浅谷さんは社員第一号。入社後、即CTOに就任したが、2017年よりロボット開発に専念。2021年4月にボードメンバーに復帰した。

「知能」のアルゴリズムを解明したい

――浅谷さんの現在の専門技術はAIとのことですが、大学では生物学を専攻していたと聞いています。

はい。大阪大学の基礎工学部 生物工学コースに在籍していました。私は子どものころからゲームが好きで、大好きなゲーム機を作ったエンジニアの方が基礎工学部出身だったことを知り、同じ学部に進めば私も同じ製品がつくれるかなと考えてこの進路を選びました。コースは生物学を選択しましたが、そこはプログラミングなどとは程遠い世界。やりたかったことと違うと思いつつ、日々細胞培養などをしていました。

――生物学からどのようにしてAIの世界に興味を持たれたのですか?

研究室の教授から、「知能とは何か」と問われたことがきっかけです。例えば単純な仕組みしか持っていない単細胞生物でも、遠くにある餌に自ら近づいて行こうとします。実はこれは、イオン濃度勾配を利用した物理現象で動いているだけなのですが、知能を持った知的な行動と捉えることができます。この現象に知能があるのか無いのか教授に問われた際に、私は答えることが出来ませんでした。

この教授の問いかけがきっかけで「知能」に興味を持ち、「知能とは何なのか」、「どんなメカニズムによって知能が発生するのか」といった疑問がどんどん沸いてきました。そして、知能のメカニズムを調べていく内にAIの技術に辿り着き、これが調べてみるとても面白く、独学で研究することにしました。

AIの知識を得るために、最初は徹底的に論文を読みました。そして、論文に書かれていることが本当かどうかを検証するために、自分でプログラムを組み、動かしてみる。すると、本当に動くことや効果があることが分かり、AIにのめり込んでしまいました。大学3年生の頃からはほとんど大学に泊まり込んで、AIの知識を得ることに没頭していましたね。

その後、2015年12月には、AIという素晴らしい技術をもっと世の中に広め、多くの人に知ってもらいたいと考え、意気投合した友人と共に在学中に「人工知能研究会」(現AIR)を立ち上げ、無料講演などの活動を始めたのです。

――独学でAIを学んだり、研究会の活動をしたり、その高いモチベーションはどこからくるのでしょうか。

「知能とは何か」という教授の問いに答えたい、これが根本にあります。この答えは今も見つかっていませんが、知能や思考のアルゴリズムを解明したいと思い続けています。私自身の「知りたい」という探求心がモチベーションになっています。

ロボット制御で重要なのは安全面と倫理面

――エクサウィザーズ(当時はエクサインテリジェンス)に入社したきっかけを教えてください。

私は元々一般的な就職活動をするつもりはなく、AIに関する活動をしていれば企業が声をかけてくれるだろうと考えていて、声をかけてくれる会社があれば一期一会と思ってそこに入社する、と決めていました。そして人工知能研究会での講演終了後に、エクサインテリジェンスの方から入社して欲しいと声を掛けられたため、二つ返事で入社をしました。当時は、AIは色々な分野に応用することができますし、世の中をもっと便利にすることができるのではないかと考えていましたが、具体的なことを見つけられずにいたので、「世の中の社会課題を解決する」という会社のミッションにも惹かれました。

――入社以来、どのようなものを開発してきたのでしょうか。

例えば、他企業が開発したロボットと当社のAIをかけ合わせて、人間のような繊細な動作をAI制御で実現するロボットの開発を行いました。2017年にはタオルを畳んだりサラダを盛り付けたりするロボット、2018年には粉体の計量ができるロボットを開発し展示会に出展しています。

どの動作も人間には簡単なものですが、タオルもサラダも粉体もちょっと触るだけで形状が変化するため、ロボットにとってはとても難しい動作です。この苦手分野を克服するために人間の動作を学習する、という仕組みを早稲田大学の尾形 哲也教授が研究されていたので、それを産業界で応用できるようにしたいと考え、AI技術の開発を進めてきました。

――開発を進める中では、色々な課題もあったと思います。

AIにロボットを制御させる上で、開発者として気にしなければいけないのは、安全性や倫理問題です。例えば、医師による医療診断や自動運転の制御などでAIを活用していますが、人ではなくAIに判断を任せていいのかという問題はありますし、安全性の面ではAIにロボットの制御を任せた際、予想外の動きで事故が起こることも想定されるでしょう。

実際、私自身も展示会でロボットが動作中に予想外の動きをしてしまうことなどの課題に直面しました。ロボットの制御をAIに任せるということは、何をするか分からない危険性も考慮しながら、シビアに取り組まなければならないのです。

今はまだAIに対して何ができて、何ができないのかを人間が理解しきれていない状況だと言えます。しかし、今後AIネイティブな人たちがもっと増えていく中で、試行錯誤や活発な議論が行われ、AIに対する理解も深まっていくでしょう。私もこうした問題は、AIが今後社会に溶け込んでいく上でクリアしなければならない課題と捉え、解決策を探し続けていきたいと考えています。

浅谷さんは、これからの世代を「AIネイティブ」と呼ぶ。「AIを道具としてうまく使える人たちがこれからどんどん出てくる」

AIエンジニアに求められるのは、課題を適切に捉える力

――AIエンジニアには、どのようなスキルが必要だと思いますか。

コーディングのスキルや数学の知識等は大前提として、AIのエンジニアには課題を適切に捉えるスキルが大切だと思います。なぜかというと、今はまだお客様は「AIで何を実現したいか」が曖昧なことが多いからです。その曖昧なイメージの中から、根本的な原因や解決すべき課題をしっかり把握して、それに対して最適なAIシステムを提供する能力が必要なのです。そのためには、自身が「AIで何ができるか」を正確に理解していることも重要です。また、お客様の置かれている状況を思い描ける想像力と、そこにAIができることを当てはめていける創造力も重要な素養ですね。

――浅谷さんの考える、エンジニアにとって一番大切なこととは何でしょうか。

好奇心ですね。何事においても、好奇心はエネルギーやワクワク感の源になると思っています。
また、特に学生の方に伝えたいのは、AIの領域は今の学生の皆さんがこれからのメインプレイヤーになる、ということです。AIの分野はものすごいスピードで日々進化していて、毎日100本、200本という単位で論文が発表されています。そういう世界で求められるのは、スポンジのような吸収力や柔軟性を持っている人たちです。ぜひ自分自身がAI領域のメインプレイヤーだと思って、好奇心を持って勉強し、この世界に飛び込んで欲しいと思います。

――最後に、今後の目標を聞かせてください。

具体的なモノとしては、いつか有名な漫画の猫型ロボットのような知能を持ったロボットを作りたいと思っています。AIや人工知能といった技術が社会や生活に自然と溶け込んで活用されている、そういう世界を目指していきたいですね。

そして、最終ゴールはやはり、知能の根源を見つけることです。現在、色々な社会課題を解決するために、思考過程であれ、物理過程であれ、AIの技術が活用されるようになってきており、最終的には人間と同じようなことができるようになるだろうと思います。今は、一つひとつの社会課題を解決することで、AIにできることを明確にし、一歩一歩私のゴールに向かって進んでいきたいです。

関連リンク

株式会社エクサウィザーズ


ライタープロフィール
杉本 恭子
幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。心理カウンセラー。


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