独自のアーキテクチャを用いた超伝導量子アニーリングマシンの開発と動作実証に成功――大規模な組合せ最適化問題の処理に道筋 産総研

古典2-bit乗算回路専用の超伝導量子アニーリングマシン(6量子ビット)の顕微鏡写真

産業技術総合研究所は2021年7月6日、超伝導量子ビットから構成される量子アニーリングマシンの開発と動作実証に日本で初めて成功したと発表した。超伝導量子アニーリングマシンの社会実装は、創薬や物流事業など幅広い産業分野での作業の効率化に貢献するという。

いくつかの可能性の中からベストあるいはそれに近い解を求める行為は「組合せ最適化問題」と呼ばれ、日常生活だけではなく、薬の開発や運輸業での最適な経路の探索などさまざまなビジネス分野に内在しているが、問題の規模が大きくなればなるほど計算時間が急激に増加する。

そのため、今後構築を進めるSociety 5.0では、メガビット~ギガビット級の大規模な実用的組合せ最適化問題を効率的に解くことが必須となっていることから、組合せ最適化問題をイジング模型の最小エネルギー状態探索問題に変換し、量子力学的重ね合わせを制御して、近似解を求める手法である量子アニーリングに注目が集まっている。

複雑に相互作用する量子ビット(スピン)から構成されている変換後のイジング模型は、隣の量子ビットとしか相互作用しない実際のハードウエアでは、任意の組合せ最適化問題を解くために「グラフ埋め込み」と呼ばれる方法を用いて、遠くの量子ビット同士の相互作用を実装している。しかし、この技術を用いる従来型の量子アニーリングマシンは、大規模な組合せ最適化問題を現状の量子ビット数では扱えないという深刻な問題を抱えている。

社会実装のためには、グラフ埋め込み技術を用いた5000量子ビットの量子アニーリングマシンで巡回セールスマン問題を解く場合に、自由度が10万以上のさまざまな組合せ最適化問題を解くことが求められているという。

また、量子アニーリングマシンの性能向上のためには、量子ビットの量子コヒーレンスを維持することが重要であると考えられているが、コヒーレンス性能が高い量子ビットを用いたとしても、グラフ埋め込みによって計算性能が大幅に劣化することが最近の研究で示されていた。

産総研では、世界で初めて特定の最適化問題に特化した量子アニーリングマシンのアーキテクチャ(ASAC)を提唱し、このアーキテクチャに基づき、古典論理回路に対応する組合せ最適化問題の一例として、古典2-bit乗算回路専用超伝導量子アニーリングマシン(6量子ビット)を設計、製造した。

古典2-bit乗算回路の正しい動作は、26=64通りの組み合わせの中で24=16通りとなる。極低温評価システムにより10mKで1万回の測定を実施したところ、正答率80%以上の結果が得られた。この成果は、大規模な組合せ最適化問題を処理する実用的超伝導量子アニーリングマシン実現のための重要な基盤技術となる。

左)10mKの極低温環境を実現する極低温性能評価システム、右)2-bit乗算回路専用量子アニーリングマシン(6量子ビット)の10mKにおける実験結果

ASACを用いることにより、必要最小限の量子ビット数で大規模な組合せ最適化問題を解くことができるため、グラフ埋め込み方式に比べ冗長量子ビット数を1桁程度抑えることができ、問題の大規模化に伴って計算に必要な量子ビット数が増大するという実用上の課題が軽減される。さらに、ASACはさまざまな組合せ最適化問題にも適応するという。

今後、大規模な量子アニーリングマシンを製造し、極低温での動作実証を実施してASAC方式の優位性の実証を目指す。また、実用化のためには正答率を向上させる必要があることから、ノイズ低減技術や高品質量子ビット製造技術の開発を進める。

6-bit乗算回路専用超伝導量子アニーリングマシン(78量子ビット)の予想図

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