脳のシナプスのようなメモリスティブな振る舞いを持つ新規材料を発見 岡山大

岡山大学の研究グループは2021年8月11日、カーボンナノチューブ(CNT)に六方晶窒化ホウ素(hBN)を合成した材料である一次元hBN/CNTヘテロ構造の大規模集合化(バルクスケール化)に成功したと発表した。その新規材料において、脳のシナプスのようなメモリスティブな振る舞いを発見したという。

円筒構造を持つナノスケールの炭素材料であるCNTに、絶縁性を持つ層状物質のhBNを合成した新規ナノ構造(一次元hBN/CNTヘテロ構造)は2020年に作られたが、CNTとhBNはファンデルワールス力で積層されていることから一次元のファンデルワールスヘテロ構造と呼ばれている。

CNTはナノスケールサイズであるため、その大規模集合化(バルクスケール化)の手法とデバイス化に関してこれまで研究が進められてきたが、新しい材料である一次元hBN/CNTヘテロ構造に関してもバルクスケール化と特性評価が必要だった。

研究では、CNT紡績糸やCNTシートにhBNを直接合成することで一次元hBN/CNTヘテロ構造のバルクスケール化に成功したという。CNT紡績糸とはCNTを無数に束ねた糸のことで、CNTが基板に垂直に配向したCNTアレイから糸をより出すことで作製できる。

また、このバルク構造体の結晶構造解析や電気特性評価により、透過型電子顕微鏡での観測でCNT上に新しいhBN層が形成されていることが確認できた。hBNの層構造に欠陥や乱れがある場合には、電流-電圧特性に大きなヒステリシスが生じることが分かったという。このような電流-電圧特性に現れるヒステリシスはメモリスタ素子の動作原理になっている。

こうしたメモリスタ的な振る舞いの原因が不明だったため、いくつかの検証実験と量子化学計算を実施し、ヒステリシスの発現モデルを提唱した。通常、hBNは絶縁性を示すため、コンダクティブフィラメントチャネル(CFC)と呼ばれる電流の経路は、一次元hBN/CNTヘテロ構造間に存在するアモルファスカーボン(a-C)が電界によって動いて形状を変え、hBN層の欠陥を通ることで形成される。CFCが形成されたときのみ導電性を示し、CFCが電界の変化に応答して、つながったり切れたりすることによってヒステリシスが現れるという。

抵抗、キャパシタ、インダクタに次ぐ第4の回路素子であるメモリスタは、素子を通過した電荷の情報を抵抗変化として記憶する受動素子で、脳のシナプスを模擬したような動作ができると考えられているため、人間の脳と同じ思考回路を持つニューロモルフィック(神経形態学的)コンピューティングに向けて必要不可欠となる。

今回観測された特異な電気的振る舞いは、メモリスタ素子としての動作を示している。このメモリスタ動作をフレキシブルなワイヤー形状で確認できたことは、フレキシブルデバイスへの実装の可能性を示しており、IoE(Internet of Energy)社会の発展に貢献できる。また、ニューロモルフィックコンピューティング実現にも期待できるという。

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