殺虫剤不使用で、蚊に刺されない服の素材を計算モデルから開発

Credit: Matt Bertone.

殺虫剤を使わずに蚊に刺されにくい服が開発された。この服に使われた繊維素材は、ネッタイシマカが刺す行動を記述した独自設計の計算モデルを用いて開発された。ネッタイシマカは、ジカ熱やデング熱、黄熱病などの原因となるウイルスを媒介する蚊だ。この研究は米ノースカロライナ州立大学によるもので、2021年7月13日付で『Insects』に掲載された。

蚊に刺されるのを防ぐために、一般的には化学殺虫剤で処理された衣服が使用されている。しかし、殺虫剤に対する耐性がこの技術の有効性を脅かしており、また、殺虫剤処理された衣服を着ることが及ぼす健康への潜在的な悪影響についての懸念も高まっている。

今回の研究では、まず、ネッタイシマカに刺されるのを防ぐ織物材料を設計する計算モデルを開発するために、ネッタイシマカの頭、触覚、口のサイズと、ネッタイシマカが刺す仕組みを調査した。そして、このモデルを使って、素材の厚さや細孔の大きさによって、蚊に刺されるのを防ぐ織物材料を予測した。ネッタイシマカ以外の蚊も生態や刺す行動が似ていることから、これらの素材は有効と考えられるという。

次に、計算モデルの精度を検証するために、蚊に刺されるのを防ぐと予測される材料をテストした。病気を持たない生きた蚊を使った実験で、モデルが予測したパラメーターに従って作成したプラスチック材料で血液が入った容器を囲んだ。そして、何匹の蚊が血を吸ったかを数えた。

最初に試した材料は、厚さは1mmにも満たないが、蚊が口の部分を材料に突き刺して貫通できないように、細孔の大きさを非常に小さくしたものだ。2つ目の材料は、細孔の大きさが中程度で、蚊が頭を材料の中に挿入できず、皮ふまで届かせることができないもの。そして、3つ目は、細孔は大きいものの、蚊の口の部分が皮ふに届かない程度の厚みがあるものだった。

その後、モデルによって決定した、蚊に刺されるのを防ぐパラメーターを満たす編物生地や織物生地を選び、血液が入った容器とボランティア被験者の両方を使った実験でその効果を確認した。実験では、蚊が入ったケージの中に防護袖で覆った腕を被験者が挿入し、被験者が蚊に刺された数を調べた。

研究チームは初期の実験で得られた知見を基に、薄い素材で作られた、蚊に刺されにくく体にぴったりフィットする下着と、軍用のコンバットシャツを想定した長袖シャツを開発した。

そして、200匹の蚊がいるケージの中で、ボランティア被験者がこれらを着用して10分間座り、10分間立っていたところ、コンバットシャツは蚊に刺されるのを100%防ぐことができた。最初の試験では、背中と肩を刺されたが、200匹の蚊に対して刺されたのは7カ所だった。刺された原因は生地が伸びて変形したためだと考え、肩周りの材料層を2倍にしたところ、最終的には刺されるのを100%防止できた。

また、着用時の快適さや、どれだけ熱を逃がさないか、どれだけ湿気を放出するかを調べる試験も行った。その結果、試作品は優れた温熱生理学特性を持つことが分かった。

研究者たちは、この計算モデルを、病気の感染を減らすための衣服開発にもっと広く利用できると考えている。同大学のスタートアップ企業であるVector Textilesは、関連する特許権をライセンスしており、今後アメリカで商用販売する衣服を製造する予定だ。

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