麻痺した手足の機能回復も­­――iPS細胞と電子デバイスを組み合わせた「バイオハイブリッド」技術

University of Cambirdge

四肢に切断や麻痺がある場合でも、その機能回復を目指す新しいタイプの神経インプラントが開発された。この技術は、フレキシブルな電子機器とヒト幹細胞による再生医療を組み合わせたもので、神経とよりよく融合し、手足の機能を動かすことができる可能性がある。この研究はケンブリッジ大学によるもので、2023年3月22日付で『Science Advances』に掲載された。

例えば、腕や脚が切断された場合、物理的に肢体がなくなっても神経系の信号はそこにすべて残っている。しかし、神経インプラントを用いて手足の機能を回復させようとするこれまでの試みは、ほとんどが失敗に終わっている。時間が経過するにつれて神経の電極の周りに瘢痕(はんこん)組織が形成され始め、デバイスと神経との接続が妨げられるからだ。

加えて、電極から表面レベルの情報しか取り出せないという問題もある。より高い解像度を得るためには、神経インプラントが電極からより多くの情報を取り出す必要があり、感度を高めるためには神経繊維1本ずつ、つまり軸索のサイズで機能するものを設計する必要がある。軸索自体の信号電圧はとても小さいが、より高い電圧を生ずる筋肉細胞とつながることで、筋肉細胞からの信号が取り出しやすくなり、インプラントの感度を高めることができるからだ。

これを実現するため、研究チームは神経の末端に取り付けられるほど薄い、生体適合性のあるフレキシブルな電子デバイスを設計した。そして、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から再プログラムした筋肉細胞の層を電極上に配置した。電極と生体組織の間にこの細胞の層を挟むことで、このデバイスがホストの身体と融合し、かつ、瘢痕組織の形成も防ぐことができると分かった。

実験では、このバイオハイブリッドデバイスをラットの麻痺した前腕に移植したところ、移植前に筋肉細胞に変化させた幹細胞は、ラットの前腕の神経と融合した。今回ラットの前腕の動きは回復しなかったが、このデバイスは動きを制御する脳からの信号を拾うことができており、動きを回復させるのに役立つ可能性があることが分かった。

研究チームは、神経再生のための2つの先進的な治療法である、細胞治療とバイオエレクトロニクスを組み合わせて1つの装置にすることで、2つのアプローチの欠点を克服し、機能性と感度を向上させることができると述べた。そして、人体への使用が可能になるには広範な研究とテストが必要だが、このデバイスは肢切断者、または手足の機能を失った人々にとって有望なものとなるとしている。

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