- 2021-9-10
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- IEEE Transactions on Industrial Electronics, PoC(概念実証), Prasad Jayathurathnage, アールト大学, トランスミッター, ワイヤレス電力伝送(WPT)システム, 学術
フィンランドのアールト大学の研究チームは、同時に複数のデバイスを充電するワイヤレス電力伝送(WPT)システムを開発した。方向に関わらず、20cm離れた場所まで90%の効率で給電可能で、充電中にデバイスを動かしても構わないという。技術研究結果は、2021年7月21日付の『IEEE Transactions on Industrial Electronics』に掲載されている。
現在、スマートフォンや電子機器をコンセントに挿すことなく、どこでも充電できるWPTシステムの研究が世界的に進められている。カメラやセンサーを使って充電するデバイスの位置を特定し、エネルギーを送る方法もあるが、機器がかさばり、費用もかさむ。
研究チームが開発したトランスミッターは、全方向に電力伝送チャンネルを作ることで従来の課題に対処した。複数のデバイスも同時に充電できる。「このトランスミッターが特別なのは、自己調整という点だ。つまりデバイスのレシーバーと接続するための複雑な電子機器が不要になる。自己調整機能のおかげで、充電範囲の中でデバイスを自由に動かすこともできる」と、Prasad Jayathurathnage博士研究員は説明する。
自己調整を機能させるため、トーラスに巻かれた二重らせんコイルをトランスミッターに使用した。これにより2つの互いに直交する磁場、トロイダル磁場とポロイダル磁場が発生する。2つの磁場はレシーバーとトランスミッターを結合し、調整や制御用の回路がなくても効率的な電力伝送を可能にした。また、全方向への伝送を確保するために、この特殊なコイルを3つ互いに直交させている。
今回のPoC(概念実証)では、最大伝送距離20cmにおいて90%の伝送効率を達成した。伝送効率を下げれば、さらに距離を伸ばせるという。また、トランスミッターとレシーバーの改良により、ピーク効率範囲の改善が期待される。
研究チームはトランスミッターに関する特許をすでに申請している。今後は、人体へ与える影響について安全テストが必要だ。安全性が確認されれば、スマートデバイス充電時のちょっとした手間を減らせるこの技術は、生産段階へと移行するだろう。
「真のワイヤレス充電とは、人をもっと自由にするということだ」と、Jayathurathnage博士研究員は語っている。この技術によって、将来スマートフォンの充電スポットを探したり、どこに挿したか忘れる心配もなくなるかもしれない。