東北大学は2021年9月14日、同大学流体科学研究所の研究チームが、大型旅客機の特に主翼前縁で生じる層流から乱流への遷移メカニズムを、スーパーコンピューターおよびエネルギー過渡増幅に着目した理論解析を用いて解明したと発表した。
航空機の大幅な低抵抗化を実現する方法の一つは、機体の形状の工夫や流体デバイスによる層流化である。主翼の50%を層流状態で維持できれば、航空機全抵抗のおよそ10%を低減できると考えられている。
航空機の主翼は、衝撃波による抵抗を低減すべく後退角を有している。そのような後退翼の周辺では流れが三次元化し、複雑な遷移過程を経て乱流化しやすく、摩擦抵抗が増加することが課題となっている。
後退翼周辺での層流化は未だ実現しておらず、次世代の超音速輸送機の実用化に向けて開発が必須となる技術だ。同技術の開発に向けては、まず層流から乱流への遷移メカニズムを解明することが求められる。
同研究チームは今回、1ケースあたり最大3000並列×約200時間に達するスーパーコンピューターの超並列計算を用いて、人工的に遷移を促進する擾乱の与え方を工夫し、航空機の主翼前縁部において遷移の原因となる二つの波の発生と成長過程の詳細を捉えることに成功した。同大学によると、世界初の成果だという。
冒頭の画像は、後退翼前縁部周辺の流れ場を可視化した様子を示している。遷移の原因となる波は、縞模様で表わされている。
さらに、流れの安定性理論と各ターゲット時間に対するエネルギー過渡増幅を比較したところ、今回の数値計算で観察される波の波長が、短い時間で不安定化する非直交モードの最適成長波長と一致することも判明した。これにより、後退翼前縁部の遷移の原因となる波の発生は、従来の漸近的不安定性とは異なり、短い時間のエネルギー過渡増幅に支配される可能性が高いことが明らかになった。
今回の研究成果により、流れの遷移しやすさの簡易な予測法の精度が向上するため、将来的にはスーパーコンピューターを用いない低コストな技術開発の実現に寄与することが期待される。