MITがアルミスクラップと水から水素燃料を作る手法を考案

液体金属をAl結晶粒界に拡散浸透させて、粒界結合を弱めることによりフレッシュな活性Al表面を現出させ、Alと水の化学反応によって水素を発生させる手法が考案された。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、アルミニウムスクラップと水を用いて、クリーンな水素燃料を作る手法を考案した。ガリウム(Ga)とインジウム(In)から構成される液体金属をアルミニウム(Al)結晶粒界に拡散浸透させて、粒界結合を弱めることによりフレッシュな活性Al表面を現出させ、Alと水の化学反応によって水素を発生させるというものだ。研究成果は、MITエネルギーイニシアチブの機関紙『Energy Futures』の2021年春号に掲載されている。

地球温暖化が深刻化するにつれて、クリーンな水素燃料が注目されているが、水素は燃焼時には炭素を排出しないものの、一般的なプロセスでは製造時に炭素を排出する。実際、大半の水素燃料は化石燃料をベースとしたプロセスで製造され、合計で温室効果ガス全体の2%を排出しているとされる。

同大機械工学科の研究チームは、炭素を生じない水素発生手段として、Alと水の化学反応に着目した。Al金属は水と常温で容易に反応し、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)とともに水素を生成する。ただしAlは通常その表面が酸化アルミニウム(Al2O3)に覆われており、そのままでは水との反応は起こらない。研究チームは、濡れ性が高い液体金属をAl結晶粒界に拡散浸透させることで粒界結合を弱め、酸化被膜のないフレッシュな活性表面を現出させることを試みた。

比較的低融点で濡れ性が極めて高い液体金属が、固体金属の結晶粒界に自然に拡散浸透して粒界強度を弱める現象は、「液体金属脆化」として古くから知られている。Alと液体Ga、銅と水銀、さらに鉄と溶融亜鉛など、特定の固体金属と液体金属の組み合わせで生じる現象だ。

研究チームは、GaとInを特定比率で混合し、最も低融点で室温でも液体状態を保つ共晶化合物を作成した。これをAI試験片表面に塗布したところ、結晶粒界に自然に浸透し、48時間後には1.5mm厚の試験片内部の粒界まで到達することが判った。その後、サンプルを水に浸漬しAlと水の反応を起させた結果、50~150分の間にAl重量1gあたり最大0.45mL/sの流量ピークを示す水素発生を確認することに成功した。

研究チームは、使用するAl材料として、廃棄自動車や解体建築資材などから得られるスクラップを想定し、スクラップの一般的なAl材料に含まれる、シリコン(Si)やマグネシウム(Mg)などの合金元素の影響も調査した。その結果、0.6%のSi含有は、Al単位重量あたりの水素発生収率を20%増加させるとともに水素発生を加速するが、逆に1%のMg含有は水素発生収率を著しく低減するとともに水素発生を遅延させることがわかった。またAlの結晶粒径について、粒径の微細化は活性表面積の増大を通じて、水素発生量を顕著に増加させた。

研究チームは、これらの実験結果は、特定用途における水素必要量パターンに合わせてスクラップの種類を組み合わせるなど、安全で経済的な水素製造システムを設計する上で重要な指針になるとしている。

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