- 2021-10-13
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ナトリウム電池用の高性能電極材料を作製するための新しいコンセプトが発表された。新しいタイプのグラフェンを用いて、世界で最も一般的で安価な金属イオンの1つであるナトリウムを貯蔵するというものだ。この研究はスウェーデンのチャルマース工科大学を中心とした研究チームによるもので、研究結果は2021年5月28日付で『Science Advances』に掲載された。
リチウムイオンはエネルギー貯蔵に適しているが、リチウムは高価な金属であり、長期的な供給や環境問題についての懸念がある。一方、ナトリウムは豊富に存在する安価な金属で、海水や台所で使う塩の主成分だ。そのためナトリウムイオン電池は、重要な原料の必要性を減らすことができる持続可能な代替物として注目されている。
しかし、ナトリウムイオン電池にある大きな課題の1つは、容量を増やすことだ。現在の性能では、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池に太刀打ちできない。
制約要因の1つはグラファイトだ。グラファイトは積層したグラフェンでできており、現在のリチウムイオン電池でアノードとして使用されている。グラファイトにはインターカレーション反応によりイオンが挿入される。インターカレーションとは、層状結晶の層間のすき間に異質の原子や分子、イオンを挿入する反応のことだ。つまり、グラファイトではイオンがグラフェンの層を出入りすることができ、エネルギーとして貯蔵できる。しかし、ナトリウムイオンは、リチウムイオンよりも大きく、相互作用が異なるため、グラファイト構造の中に効率的にナトリウムイオンを貯めることができない。
そこで研究チームは、グラフェン層の片側に分子のスペーサーを加えるという新しい手法を考えた。グラフェン層の片側に分子のスペーサーを加えた状態で層を重ねると、分子がグラフェンシート間に大きな空間を作り、相互作用点をもたらす。これにより容量が大幅に増加するようになった。
標準的なグラファイトでは、ナトリウムのインターカレーション容量は1グラム当たり約35mAhで、この値はリチウムイオンのインターカレーション容量の10分の1未満だ。それに対し、今回発表された新しいグラフェンを用いると、ナトリウムイオンの比容量は1グラム当たり332mAhとなり、リチウムイオンの値に近づいた。また、完全な可逆性と高いサイクル安定性も確認された。
今回の研究で使用された材料の人工ナノ構造では、各グラフェンシートの上面に、スペーサーとして、かつ、ナトリウムイオンのための活性相互作用部位として働く分子が存在する。積層されたグラフェンシート2枚の間にある各分子は、下側のグラフェンシートと共有結合で結びついており、上側のグラフェンシートとは静電相互作用で相互に作用する。
この新しいグラフェンは、前向きと後ろ向きの2つの顔を持つ古代ローマの神「ヤヌス」にちなんで、「ヤヌスグラフェン(Janus graphene)」と呼ばれている。
今回の研究結果は、大容量のエネルギー貯蔵用に、ナトリウムイオンに適した秩序構造のグラフェン層を設計することができるということを示している。この研究はまだ初期段階にあり、工業的な用途にはまだほど遠いが、ヤヌスグラフェンは大容量ナトリウムイオン電池への道を開く可能性があると期待されている。