デッドゾーン構造のない固体高分子電解質を開発――イオン導電率の向上による全固体電池への応用に期待

電気自動車の開発の加速化とともに、危険性のあるリチウム電池に代わる次世代の電池として全固体電池への期待が高まっている。しかし、固体高分子電解質の低いイオン導電性は電気自動車への応用を妨げてきた。

浦項工科大学の研究チームは、イオン導電性を低下させる材料構造であるデッドゾーンのない固体高分子電解質を開発し、全固体電池の商品化への道筋をつけた。研究では、静電相互作用を通して、その構造を制御可能にする優れたブロック共重合体電解質の合成法を開発。従来の共重合体構造の相分離界面において存在するデッドゾーン内でのイオンの移動度低下という問題を根本的に解決したものである。

ほとんどのエネルギー貯蔵装置は、イオンが液体電解質によって運ばれるリチウムイオン電池が用いられている。液体のため、少しの破損により電解液が漏れ、火災や爆発を引き起こす恐れがある。この問題を克服するために、固体電解質を用いた全固体電池が検討されている。

特に、高分子電解質ベースの全固体電池は、高分子のフレキシブルな特性により、衝突下でも安定しており、非可燃性なので火災のリスクも低い。さらに、同じ重量とサイズのリチウムイオン電池と比較して、エネルギー密度が1.5倍から1,7倍高く、より長時間の使用が可能となる。これらの理由から、安全で容量の大きい電池として固体高分子電解質による全固体電池の開発が期待されている。

研究チームは、高分子電解質において静電相互作用を制御することで新しいナノ構造を有する電解質を開発。精密な合成法により強度の異なる静電相互作用を持つ一連の高分子電解質を合成し、電解質のナノ構造を小角X線散乱法により確認した。さらに、分子動力学シミュレーションにより、ナノ構造内におけるイオンの分布を評価した。また、電荷分布を制御することで、従来の構造のものと比較してイオン導電率が一桁大きい固体電解質が作れることを突き止めた。

「この結果は、安全な全固体電池の商業化を加速するだろう」と、研究リーダーのPark教授は述べている。

研究成果は、2021年8月10日付で『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載されている。

関連リンク

Polymer electrolytes for all-solid-state batteries without dead zones(ScienceDaily)
Polymer Electrolytes for All-Solid-State Batteries Without Dead Zones(POSTECH)

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