水中でも自己修復性能を示す新しい機能性ポリマーを開発 理研

理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループ グループディレクターの侯召民氏らの共同研究チームは2021年11月11日、希土類金属触媒を用いることにより、2種類の極性オレフィンとエチレンとの「精密三元共重合」を達成し、迅速な自己修復性能を示す新しい「機能性ポリマー」の創製に成功したと発表した。実用性が高く、さまざまな環境下で自己修復する新しい機能性材料の開発への貢献が期待できる。

共同研究チームは2019年、独自に開発した希土類触媒を用いることで、エチレンとアニシルプロピレン類との二元共重合を達成しており、今回はこれらを踏まえ、希土類金属触媒を用いたエチレンと置換基の異なる2種類のアニシルプロピレン類との三元共重合反応の開発に取り組んだ。

今回、スカンジウム(Sc)触媒を用いて、エチレン1気圧の条件で2種類のアニシルプロピレン類との三元共重合を行い、1段階で比較的高分子量のポリオレフィンを得ることに成功。このポリオレフィンは、アニシルプロピレン類とエチレンとの2種類の交互ユニットに加え、エチレン-エチレン連鎖を持つ構造であることがわかった。

これらの三元共重合体は、対応するそれぞれの二元共重合体のガラス転移点(Tg)とは異なる1つだけのTgを示すため、二元共重合体の混合物ではなく、真の三元共重合体となる。さらに、ヘキシル基を持つアニシルプロピレンと、メトキシピレニル基を持つプロピレンのポリマーの場合は、モノマーの組成比の制御により、Tgを-31℃~98℃の任意の温度で精密に制御できる。

得られたポリオレフィンは、伸び率約1400%、破断強度約3メガパスカルと優れたエラストマー物性を示すことに加え、迅速な自己修復性能があり、外部から一切の刺激やエネルギーを加えずに迅速に自己修復する。

引張試験で自己修復性能を評価した結果、5分で引っ張り強度が97%回復。対応する二元共重合体の自己修復時間(5日間)と比べ、大幅に自己修復速度が向上している。水、酸やアルカリ性水溶液中でも48時間程度で自己修復するという。

新しい機能性ポリマーの大気中における自己修復

自己修復性材料は、水素結合やイオン相互作用などを生かして精巧に設計されたものが知られているが、それらの相互作用は水や酸などで壊れやすく、実際の自然環境下ではほとんど機能しないことが課題となっていた。

一方で、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンは汎用性高分子材料であり、水素原子や炭素原子以外のヘテロ原子を含むオレフィン(極性モノマー)とエチレン(非極性モノマー)を共重合させ、ポリオレフィンにヘテロ原子などの極性基を導入する触媒が研究されてきた。

しかし、通常、ヘテロ原子を持つオレフィンの重合活性はエチレンに比べて格段に低いため、共重合反応の制御は難しく、エチレンと2種類の極性オレフィンとの三元共重合はこれまで報告されていなかった。

今回得られたポリオレフィンがエラストマー物性や自己修復性を発現する理由として、ヘキシルアニシルプロピレンとエチレンとの交互ユニットが柔らかい成分として働き、エチレン-エチレン連鎖の硬い結晶ユニットとエチレン-メトキシアリールプロピレン交互ユニットが物理的な架橋点として働くネットワーク構造の構築が重要な鍵となることが分かった。

新しい機能性ポリマーのミクロ相分離構造の模式図と自己修復のメカニズム

切断面をくっつけると、エチレン-エチレン連鎖の硬い結晶ユニットやエチレン-メトキシアリールプロピレン交互ユニットが分子間相互作用で再凝集し、自己修復する。

水素結合やイオン結合などを活用する従来の自己修復性材料は、水中ではそれらの相互作用が弱まり、うまく機能しないことがあるが、今回開発したポリオレフィンのいくつかの構造ユニットは水の影響を受けず、大気中だけではなく、水、酸やアルカリ性水溶液中でも自己修復性を発現できる。

開発したポリマーは、簡便に合成でき、置換基の適切な選択やモノマー組成比の制御により熱物性、機械物性を制御できることから、大気中だけではなく、水、酸やアルカリ性水溶液中などのさまざまな環境下で自己修復する、実用性の高い新しい機能性材料の開発への貢献が期待できる。

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