貴金属や希少金属、毒性元素を使用しないCO2変換固体光触媒を開発――スズ系MOFを採用 東工大と関西学院大

東京工業大学は2023年5月30日、同大学と関西学院大学の共同研究グループが、貴金属や希少金属、毒性元素を使用しないCO2変換固体光触媒を開発したと発表した。可視光を利用して、CO2から高い選択率かつ高いみかけの量子収率(入射光子の全吸収を仮定して計算した、生成物を生成するために使用した電子数の割合)でギ酸を得ることに成功している。

CO2を有用な化学物質に変換する触媒技術が、近年注目を集めている。光エネルギーを化学エネルギーに変換する光触媒は、常温常圧下での反応駆動が可能で、特に固体光触媒の開発は、反応後に反応物と触媒の分離が容易、触媒の回収が容易といった理由から重視されている。

これまで開発されてきたCO2を変換する可視光応答型の固体光触媒システムは、ルテニウムや銀といった貴金属や希少金属を要するものがほとんどだ。また、東京工業大学の研究グループが過去に開発したCO2変換触媒「KGF-9」は、有毒な鉛を用いるものとなっていた。このため、普遍元素からなる固体光触媒の開発が求められていた。

今回の研究では、550nm程度までの可視光を吸収可能なスズ系MOF(金属有機構造体)「KGF-10」を用いた。

KGF-10の(a)反応スキーム(b)結晶構造

KGF-10に可視光を照射したところ、CO2をギ酸に高選択的かつ高効率に変換できることが判明した。

(a)ギ酸生成の時間経過
(b)KGF-10の吸収とみかけの量子収率の作用スペクトル

また、光触媒反応の初期段階においてKGF-10がその構造を変化させ、その後に触媒反応が定常的に進行していることが示唆された。

今回開発した光触媒は、最適化した触媒反応条件でのギ酸の生成選択率が99%以上、みかけの量子収率が9.8%(照射波長400nmでの値)に達している。同発表によると、貴金属や希少金属を含まない単一成分光触媒システムの中では世界最高値だという。従来の鉛からなるKGF-9の光触媒システムと比較しても、みかけの量子収率は3.6倍となる。

KGF-10は、スズを金属元素として利用しており、既存の可視光応答型光触媒と比較して資源面での制約が少なく、コストも低減できる。さらに毒性が低いことから環境負荷を低減できるため、実用化に向けた一歩となることが見込まれる。

ただし、現段階では、構造変化後の活性な光触媒の構造が判明していない。今後、実際に光触媒反応を起こしている構造を突き止めることで、さらに性能を改善した高活性なCO2変換光触媒の開発に繋がることが期待される。

関連情報

貴金属・希少金属、毒性元素を用いない高効率な二酸化炭素変換光触媒を開発 元素戦略を指向したカーボンニュートラル技術として期待 | 東工大ニュース | 東京工業大学

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