ハーバード大、「量子スピン液体」と呼ばれる物質の状態を観測

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ハーバード大学の研究チームが、「量子スピン液体」と呼ばれる物質状態を観察することに成功した。約半世紀前に予測されていたが、これまで実験的に観察されていなかったものだ。研究チームは、量子シミュレーターを用いて219個の原子を格子状に2次元配列した結果、超低温においてもスピンの向きが規則性を持たない一方、スピン同士が独特な相互作用を持つ量子スピン液体の状態を確認した。安定した量子ビットの創成に繋がり、量子コンピューターの発展に貢献すると期待される。研究成果が、2021年12月2日の『Science』誌に論文公開されている。

量子スピン液体は、1973年に物理学者Philip W.Andersonにより提案された新しい物質状態。水などの日常的な液体とは関係なく、電子スピンが常に液体のように流動的に変化する量子状態になっている物質状態を指すものだ。通常の磁性体においては温度が一定温度以下に低下すると、スピン間の相互作用が熱エネルギーより大きくなって、スピンの向きが一定の方向に整列し、強磁性や反強磁性状態を形成する。

量子スピン液体状態では、スピン同士が互いに強く相互作用しているにも関わらず、絶対零度までスピンの向きが整列せず流動的な状態となる。三角形やカゴメ状の格子を持つ特殊な結晶では、電子スピンが一方向または逆方向に単純に整列できないことから、量子スピン液体状態となる可能性が指摘されていた。実際にチリの採掘現場で発見された鉱物「ハーバートスミス石」は、カゴメ状格子を形成し量子スピン液体状態発現の可能性が報告されている。

量子スピン液体が保持する特異な励起状態、強い量子ゆらぎや量子もつれなどの特性は、低消費電力での情報処理やエネルギー変換に利用できるため、スピントロニクスや高温超電導の発展に資する可能性がある。更に、ノイズや外乱に対して耐性がある安定な量子ビットを作り出す可能性があり、超高速量子コンピューター分野で大きな注目を集めるようになってきた。2020年には東京理科大学の研究チームが、正方カゴメ格子を有する鉱物系結晶を合成し、絶対零度に近い超低温において、電子スピンに長距離秩序がなく量子ゆらぎが存在するなど、量子スピン液体の特徴を実験的に確認している。

ハーバード大学の研究チームは、量子スピン液体の存在を確認するため、プログラム可能な量子シミュレーターを用いた実験を行った。2017年に開発した量子シミュレーターは、方形やハニカム、三角形など多様な格子配列をレーザー光ピンセットによって作り出すことができ、超低温における原子間の多様な相互作用を再現することができる。

研究チームは、219個の原子をカゴメ格子状に2次元配列し、最外殻電子を高い主量子数に励起した。その結果、超低温においてもスピンの向きが規則性を持たないが、スピン同士が量子もつれなどの特異な相互作用を持つ量子スピン液体状態を確認することに成功した。研究チームは、この量子スピン液体状態を応用し、量子コンピューター開発の鍵になるノイズや外乱に強い安定な量子ビット創成を目指して、シミュレーターを用いた研究を継続する予定だ。

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