慣性核融合研究から核融合エネルギー実現へまた一歩――米核融合施設での実験についての詳細を発表

Credit: LLNL

米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)は、2021年8月8日、国立点火施設(NIF)で行われた実験で核融合反応から1.35メガジュール(MJ)という記録的な量のエネルギーを実験室で発生させることに初めて成功したが、2021年11月8日に、米国物理学会(APS)プラズマ物理学部門の第63回年次大会で、この成果についてLLNLの物理学者であるDebra A Callahan氏が詳細を発表した。今回の成果についてはメディアでも多く取り上げられているが、学術会議の場で今回の成果と今後の展望について講演するのは初めての機会だった。

この核融合反応は数十年にわたる慣性核融合についての研究の成果で、2021年春に行われた実験と比べて8倍改善しており、NIFが2018年に達成した核融合収率からは25倍の増加となった。

NIFの手法では、アメリカのサッカー場数面分に当たる大きさの施設に設置された巨大レーザーを使って192本のビームを生成し、約20ナノ秒の間に1.9MJという短時間で強力なパルスでターゲットに集中させる。できるだけ多くのエネルギーをカプセルへ集めるため、ターゲットとなる小さな球状カプセルを核融合燃料となる重水素と三重水素で満たし、鉛筆に付いている消しゴム程度の大きさの金の円筒の中に設置する。

ビーム照射により金が気化するとX線パルスが発生し、カプセルが爆縮。核融合燃料を高温かつ高密度の球体内に押し込んで核融合点火を起こす。理論的には、このような小さな核融合爆発を1秒間に約10回引き起こすことができれば、発電所では生成された高速の中性子からエネルギーを得て発電できる。

NIFは、ターゲットの温度を華氏1億8000万度(約1億℃)以上にし、1000億気圧以上の圧力を発生させ、このような極限条件によりターゲット内の水素原子は融合し、制御された熱核融合反応でエネルギーを放出する。

今回達成された1.35MJは、時速160kmで走る自動車の運動エネルギーに相当する。このように大きな収率を達成することは、慣性核融合研究の長年の目標だった。

今回の実験は、NIFのチームが過去数年間に開発した新しい診断法を含む進歩の上に成り立っている。カプセルシェル、充てんチューブ、カプセルを保持する円筒といったターゲット製作に関する改良、レーザー精度の向上、爆縮に連結するエネルギーと爆縮の圧縮を高めるための設計変更などの進歩によって、新たな実験体制へのアクセスが可能になり、研究の新たな道筋と、点火につながる近接性を理解するために使用するモデリングを評価する機会を得ることができるようになった。

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