核融合炉ブランケットの新概念として、900℃の高温で機能する高純度の液体リチウム鉛合金を大量合成 東京工業大学ら

東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所 近藤正聡准教授らは2022年2月24日、横浜国立大学、量子科学技術研究開発機構と共同で、核融合炉ブランケットの冷却材の新概念として検討されている液体金属の研究で、900℃の高温で機能する高純度の液体リチウム鉛合金の大量合成に成功したと発表した。900℃の液体金属が生じる厳しい腐食性に耐える構造材の候補材料も発見したという。

純度によって性質や腐食性などが大きく変化する液体金属の中でも、リチウム鉛合金は、水の半分程度の密度しかないリチウムと、水の約10倍の密度を有する鉛を均一に混ぜることが非常に難しく、合成時の純度の制御が課題になっていた。そこで研究グループは、高純度リチウム鉛合金合成装置を開発した。

この装置はマッシュポテト式攪拌法を応用しており、350℃という低温で原料を一気に攪拌する。純度を管理する上で理想的な条件である減圧環境下で混合することで、原料に付着した水分等の不純物を昇温脱離させ、高純度のリチウム鉛合金を合成した。これまでの合成量は300g程度が限界だったが、原子組成で鉛84%、リチウム16%のリチウム鉛合金を10kg合成できた。

今回の合金合成試験では、既往研究に比べ、鉄(Fe)やクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)などの金属不純物の混入を大きく抑制。また、中性子を吸収して放射性物質を生産してしまうビスマス(Bi)の濃度や、構造材料の腐食を促進してしまう溶存窒素(N)の濃度も従来の10分の1以下に抑えられた。

次に、合成した高純度リチウム鉛合金を用いて、316Lオーステナイト鋼、シリコンカーバイド(SiC)、鉄クロムアルミニウム(FeCrAl)酸化物分散強化合金であるNF12(Fe-12Cr-6Alのタイプ)とカンタル製のFeCrAl合金のAPMT(Fe-22Cr-5Alのタイプ)を対象として、600℃、750℃、900℃の条件で共存性(耐食性)を調査した。

その結果、600℃、750℃では大幅な違いは見られなかったが、900℃の条件では316Lオーステナイト鋼が激しく腐食。SiCは表面に酸化物等の化合物を形成しながら緩やかな速度で腐食し、FeCrAl酸化物分散強化合金はほとんど腐食しなかった。

さらに詳しく調査すると、FeCrAl酸化物分散強化合金は、人間の髪の毛の10分の1から5分の1程度の厚さである約5~10μmの酸化被膜を形成しながら、液体金属から身を守ることがわかった。この酸化被膜は、人間の皮膚のように破壊されたり剥がれたりしても同様のメカニズムで再生することから、FeCrAl酸化物分散強化合金は優れた耐食性を維持することが期待できる。

核融合炉は、心臓部にあたるブランケットと呼ばれる機器で、高効率で革新的なエネルギー変換をいかに行うかが重要となる。その手法として、ブランケット内に、液体金属である液体リチウム鉛合金を流して使用する液体ブランケットの手法が高い関心を集めている。

日本の原型炉では、約300℃の高温高圧水で熱を取り出す方式の発電ブランケットを検討している。もし、ブランケットに用いる冷却材を液体金属に置き換え、900℃近い高温の条件で使用できれば、ブランケットでのエネルギーの生産や核融合炉燃料の増殖に加え、水素を水から製造するための高温熱源としても応用できる可能性が広がるが、液体金属の高い腐食性に耐える材料が課題となっており、構造材の探索が求められていた。

今回、新たに開発したリチウム鉛合金の高純度合成技術により、これまでよりも純度の高い液体金属が合成できるため、液体金属研究が一層活発になり、技術革新につながることが期待できる。また、液体金属とFeCrAl酸化物分散強化合金は、異なる種類の液体金属を冷媒とするシステムにも応用できる成果となる。これらの研究の成果は、カーボンニュートラル社会とゼロカーボンエネルギーの実現に大きく寄与するものとなる。

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