東京都立大学は2022年4月19日、砂の落下運動を明らかにしたと発表した。また、粉体の運動は、構成要素やフォースチェーンを粗視化した流体近似が可能であることも判明した。産業や防災など、社会全般における課題解決に寄与することが期待される。
乾いた砂を上から注いだ際、はじめのうちは砂山が形成されるものの、一定の角度に達すると砂が斜面を滑って落下する。砂の集合体である粉体は、固体のような弾性と液体のような流動性の双方を有する。
砂の流動性は、生産過程や輸送過程といった産業面や、土砂災害、黄砂の拡散、火山灰などの降灰、雪崩現象といった災害面に関わるもので、社会全般における課題となっている。
これまで、粉体のミクロなモデル研究は盛んに行われており、緩和などの局所的な動的性質の理解が進み、流動層の形成についての知見が一定程度得られている。一方で、マクロな集団運動については研究事例が少なく、比較的理解が進んでいなかった。
今回の研究では、砂の入った容器をひっくり返した際にフォースチェーンが下からちぎれて流動化すると考え、高分子が系全体に広がっているゲルの場合と類似していることに着目した。フォースチェーンとは、粉体に力を加えた際に鎖状に力が伝搬することを指す。この力が系全体に広がると、自重を支えることが可能となる。
実験では、まずゼラチンを固めたゲルを上下2層に並べ、上のゲルの濃度を高めた状態で下から温めた。下のゲルが液体になり、続けて上の層のゲルが下から液状化する。上の層の方が重いため、溶けた部分から徐々に落下する。
また、粉体系の実験として、砂を詰めた容器をひっくり返して測定した。空気や水、詰める角度などさまざまな条件下で測定している。
砂を詰めた容器をひっくり返したところ、粉体の落下運動の特徴であるfingerとよばれる指状に落下した。その際、落下途中でfingerの間に新たなfingerが生じることが判明した。一方で、ゼラチンを下から温めた場合も、粉体系と同様に細いfingerが生じ、落下中に新たなfingerが形成されることが明らかになった。このことから、粉体系とゲル系の落下挙動が類似していることが示された。
さらに、finger間の距離に当たる特徴的な波長やfingerの成長速度を定量的に測定したところ、双方ともに流動層の厚みLに比例していることが判明した。
軽い流体の上に重い流体がある時、界面が不安定化して波打つ「レイリーテイラー不安定性」の波長は、層の厚みに比例することが分かっている。今回、この関係は粉体系でも成立することが明らかになった。粉体系を、流動層の厚みが時間変化する流体系と捉えることが可能となっている。
以上により、粉体の運動は構成要素やフォースチェーンを粗視化した流体近似が可能であることが判明した。流体系は以前より実験やシミュレーションが盛んに行われているため、それらの知見と粉体の流体近似を組み合わせることで、他の集団運動の解明に寄与することが期待される。