原料は石油の残りかす――MIT、炭素繊維を安価に作製する手法を開発

Credits:Photo: Nicola Ferralis

温室効果ガスの排出抑制やEVの航続距離向上など、自動車の効率化追求のためには、車体に使用される材料はより軽量で高強度のものが必要だ。炭素繊維は軽量かつ高強度の材料だが、製造コストが高いため、高級スポーツカーなど狭い範囲に限られている。今回MITを中心とする研究チームは、石油残渣物という極めて安価な材料から炭素繊維を作る方法を開発した。さらにこの手法を用いれば従来よりも圧縮強度の高い炭素繊維の作製も可能で、さらに大荷重の用途にも利用できる可能性がある。研究成果は『Science Advances』誌に、2022年3月18日付で公開されている。

研究チームによると、自動車の材料に適した品質の炭素繊維は1ポンド(約450グラム)あたり10~12ドル(約1200~1500円)以上で、宇宙船の部品のように特殊な用途では1ポンドあたり数百ドルにもなるという。より一般的な材料である鉄鋼は1ポンドあたり75セント(約90円)、アルミニウムは1ポンドあたり2ドル(約250円)だ。

炭素繊維には、ポリアクリルアミドなど石油由来ポリマーを原料とするPAN系炭素繊維と、石油や石炭などの製造過程で生じるピッチ(残渣物)を原料とするピッチ系炭素繊維があるが、現在は主にPAN系炭素繊維が利用されている。石油ピッチは石油精製時に残る重くてドロドロとした副産物で、アスファルトなどに利用されたり、廃棄物として処理されている。ピッチには利用できる化学物質が多く含まれているが構造的に不均一であるため、製造した炭素繊維の特性に、ばらつきが出るという問題がある。

そこで研究チームは、構成分子の結合や架橋の仕方をモデル化することで、所定の加工条件が炭素繊維の特性にどのような影響を及ぼすかを予測する方法を開発した。繊維の密度や弾性率などの特性が、実験結果とよく一致しているかが示されている。

また開始条件を調整することで、多くの炭素繊維が持つ引張強度だけでなく、圧縮強度にも優れた炭素繊維を作ることができることも明らかとなった。これは炭素繊維に新しい可能性をもたらす結果だ。

この研究は、米国エネルギー省(DOE)が募集した、自動車全体の重量を減らすことで燃費を向上させる手法開発に応えて始まった研究だ。DOEは、1ポンドあたり5ドル以下の軽量材料を求めていたが、MITによると今回の手法はそれよりもさらにコストが低い1ポンドあたり3ドル程度になると見積もっている。

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