ボタンひとつでおいしい水を――MIT、ローメンテナンスの携帯淡水化システムを開発

J-WAFS at MIT/YouTube

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、ボタンひとつで稼働する、持ち運び可能な淡水化装置を開発した。小さなスーツケースほどの大きさで重さは10kg以下、バッテリーで駆動し、スマートフォンアプリから遠隔操作もできる。研究結果は2022年4月14日付けの『Environmental Science and Technology』に掲載されている。

逆浸透法ベースの携帯型淡水化装置は既に商品化されているが、高圧ポンプやフィルターの交換など、頻繁なメンテナンスを必要とするため、遠隔地へ配置するには適していない。

一方、Jongyoon Han教授率いる研究チームの開発したデバイスは、イオン濃度分極(ICP)と電気透析を組み合わせることで、交換用フィルターの必要性を無くし、長期的なメンテナンスを大幅に削減するという。ICPは10年以上前にHan教授らが考案した手法で、印加した膜の間に水を通すことで、塩イオンや微生物、ウイルスと電荷をもたない水を分離する。ただし、ICPだけで全ての塩分を取り除けるとは限らないため、電気透析法を組み合わせている。

研究チームは、2種類のプロセスの最適な組み合わせを見つけるため、機械学習を利用した。データ駆動型の予測モデルは実験結果と一致したという。これにより、2段階のICPプロセスのあとに1段階の電気透析プロセスを通すという構成を得た。ポンプは必要だが低圧タイプで良く、エネルギー消費量もほかの手法と比べて少ないとしている。

さらに、ICPと電気透析モジュールを小型化し、42×33.5×19cmのケースに、制御系、ポンプなどとともに格納した。小型の携帯型ソーラーパネルとバッテリーで駆動できる。使いやすさを考慮して、ボタンひとつで淡水化処理ができるようにした。さらに、スマートフォンアプリも開発して、ワイヤレスで装置を制御し、リアルタイムの塩分濃度と電力消費量を確認できるようにした。

ボストンのカーソンビーチで、実際に試作品を使ってテストしたところ、約30分でコップ1杯分の飲料水を作り、その水質はWHOのガイドラインを上回るものだった。水の生産率は1時間当たり0.3Lで、消費電力は1L当たりわずか20Wだ。

材料の低コスト化など課題はあるが、このシステムは、小さな島々や貨物船など、遠隔かつ資源の限られた地域の淡水化に役立つほか、災害時や軍事作戦中にも利用できる可能性がある。

「これは、私とグループが行ってきた10年間の旅のまさに集大成だ。我々は個々の脱塩プロセスの背後にある物理学について何年も研究してきたが、それらすべての先進技術を1つの箱に入れ、システムを構築し、海洋で実証したことは、私にとって非常に意味があり、有意義な経験だった」と、Han教授は語っている。

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