人々の身近な課題をITの力で解決したい。分かりやすく、簡単に日程調整ができる「調整さん」と共に歩んできた、エンジニア出身の経営者—— ミクステンド 北野智大氏

飲み会などの日程調整のために、スケジュール調整支援ツール「調整さん」を使ったことがある人も少なくないだろう。今回ご紹介するのは、月間300~ 400万人が使用する「調整さん」の成長と共にキャリアを積んできた、ミクステンド 代表取締役の北野智大さん。誰もが使い方をすぐに理解できて、手軽に日程調整ができるサービスを追求している。(執筆:杉本 恭子、撮影:編集部)

--まず御社が提供している「調整さん」と「調整さんカレンダー」について、紹介をお願いします。

[北野氏]「調整さん」は、飲み会やお出かけなどの日程調整を登録やログインなしで行えるサービスです。元々は、2006年に株式会社リクルートの新規事業としてリリースされたもので、2018年に当社が事業を譲り受けました。

「調整さんカレンダー」は、予約の受付と管理を簡単に行えるサービスです。Googleカレンダーと連携して、空き時間のみ予約を受け付けることができます。個人でレッスンを行っている方やお店などのほか、最近では、医療機関でのコロナワクチンの予約受付にもご利用いただきました。

このような日程調整ツールは、ユーザーが初めて触れるときに、操作が分かりにくい、使いにくいと感じてしまったら、その後使われなくなってしまいます。そのため、ユーザーからのフィードバックを基に、いかに日程調整の手間を省くかという視点で、入力フォームの最適化、イベント作成時のボタンの色や大きさ、イベント説明時のフォントサイズ、出欠マークの初期値の調整など、非常に細かい試行錯誤を繰り返し、使いやすさを改善しています。

--2020年にはビジネス向けの日程調整自動化サービス「TimeRex」をリリースされましたね。調整さんとは別にTimeRexを開発したのはなぜですか?

[北野氏]ビジネスの日程調整は、前後に多くの工程が発生します。例えば商談であれば、まず自分の空き時間を調べて、いくつか候補日程をリストアップする。日程が決まるまでは「仮」として予定を押さえ、商談相手に連絡する。相手から返事がきて、日程が決まったら仮押さえを開放し、決まった予定を入れる。他にも、打ち合わせに必要な会議室の確保や会議URLの設定、資料を送ることもあるでしょう。ビジネスの場におけるこうした工数を削減し、作業の効率化を図りたいというニーズに応えるために、TimeRexを開発しました。

TimeRexは、GoogleカレンダーやOutlookの予定表だけでなく、さまざまな営業ツールとも連携が可能で、日程調整前後にある10以上の作業を自動化することで、95%以上の工数削減効果が期待できます。サービスリリースから約2年で、7万人以上のユーザーに活用いただいております。

日程調整自動化のイメージ。普段何気なく行っている日程調整の作業も、整理してみると効率化の余地がたくさんある。 画像提供:ミクステンド株式会社

--ビジネスの場ではオンライン会議も一般的になりましたが、オンライン特有の日程調整に対する課題はありますか?

[北野氏]「オンライン会議のURLを送り忘れた」「時間になっても相手が参加しない」「URLが記載されたメールが見つからない」など、オンライン特有のトラブルは意外と多いものです。そのため、TimeRexではZoom、Microsoft Teams、Google Meetと連携し、自動的に相手に会議のURLを送る機能や、前日にリマインドメールを送る機能を実装しています。

日程調整の課題は、一つ一つは小さなことなのですが、それがいくつも積み重なるので、想像以上に手間がかかってしまうのです。

--TimeRexを開発するうえで、大事にしたことは何ですか?

[北野氏]やはり、「分かりやすさ」ですね。調整相手は、送られてきたURLにアクセスして対応可能な日程を回答するのですが、TimeRexをまったく知らない、初めて目にする方が使う可能性は大いにあります。そこで操作にストレスを感じたら「普通にメールで調整してくれるほうがいい」と思われてしまいます。ですから、説明文を読まなくても「画面を見るだけで、次に何をすればいいか分かる」ということを非常に大事にしています。

一方で、利便性を高めようとして色々な機能を実装すると、かえってシステムが複雑になり、分かりやすさを阻害することもあるので注意しています。実際、良いアイデアだと思って開発しても、社内でテストしてみると分かりにくいという評価になったため、搭載していない機能もあります。

世の中の環境も変化し、働き方改革やコロナ禍をきっかけに業務を見直し、日程調整に手間と時間がかかっていることに気付いた会社も多いでしょう。私たちはそうした課題に応え、身近な日程調整の効率化、自動化を気軽に始められるよう、シンプルで分かりやすい、日程調整サービスを追求しています。

TimeRexの画面イメージ。シンプルな作りで、次の工程が分かりやすくなる工夫が施されている。 画像提供:ミクステンド株式会社

休学してインターン、中退。フリーランスを経て起業

--ここからは北野さんのキャリアについてお話を伺います。大学は関西学院大学 理工学部情報科学科に入学されていますね。元々情報系に興味があったのですか?

[北野氏]はい。小学生の頃に家のパソコンを触るようになり、ペイントの機能を使って遊んでいました。中学生の時には、苦手だった読書感想文をパソコンで作成してみたのですが、そこでデジタルツールの便利さに感動して、パソコンにのめりこむようになりました。その後、高校時代にはプログラミングに没頭し、より高度なプログラミングの知識を得るために、大学は情報系に進学することを決意しました。そして、関西学院大学の情報科学科に進学したのですが、そこで学ぶ内容は自分がイメージしていたものとは違ったのです。情報科学科では暗号技術を作ったり、情報理論を解き明かすなど、学術的な知見から新しい技術を作り出すための研究が主でしたが、私は既にある技術を使って人々の生活をより便利にするものを作る方が好きだったのです。結局、大学の講義に面白さを感じられなくなり、自主的にWebサイトを作ったり、iPhoneのアプリを開発していたのですが、自分の好きな分野に集中したいと思い、4年生のときに休学する決断をしました。

「中学生の時、苦手な読書感想文をパソコンで書いてみたら、とても便利で感動した」。これが、北野さんがITエンジニアを目指すきっかけになったとのこと。

--休学中にはリクルートのインターンに参加されていますが、その理由は?

[北野氏]休学してWebサイトやiPhoneのアプリ開発を続けていたのですが、やがて1人で製作することに限界を感じるようになり、チームでの開発を学びたいと思ったからです。丁度、リクルートが新規事業部のインターンを募集していて、「新規事業なら学生にも色々任せてもらえそうだ」と考え、応募することにしました。そこで、「調整さん」と出合い、2年間開発に携わることになったのです。2年間のインターンを終えても調整さんの開発は続けたかったので、大学に戻るのではなく、中退してフリーランスとして働くことを選びました。

--そして2018年にミクステンドを起業したのですね。起業の経緯を聞かせてください。

[北野氏]2017年頃、リクルートで事業の見直しが行われ、調整さんの開発は停止し、事業譲渡することになりました。私はそれまでに調整さん、調整さんカレンダーの開発に4年間関わっており、「これらのツールは、自分が一番理解している」という自負がありましたから、起業して譲渡先候補として手を挙げました。

譲り受けた後に、サービスを大きくしていくための具体的な構想も、2020年にリリースしたTimeRexのイメージも持っていたので、早く譲り受けて調整さんをより良くしたい、と思っていましたね。

エンジニアは「作る人」から「課題を解決できる人」になるべき

--現在、会社の代表とプロダクトマネージャーを兼務しておられますが、具体的にどのようなお仕事をされているのですか?

[北野氏]今は、自分でコードを書くことはほとんどありません。プロダクト開発は開発チームに任せて、私は開発の方向性を考えたり、意思決定することが仕事です。

自分1人では作れないものを、優秀なチームがスピード感を持って作ってくれるので、直接開発をしていなくても楽しいです。立場は変わっても、「何かを作りたい」という、エンジニアとしてのモチベーションは変わらないですね。

そして、私たちが作ったサービスがたくさんの人に使われ、その結果、人々のライフスタイルやビジネスのスタイルが変わっていくことに、とてもやりがいを感じています。これもエンジニアとして仕事をしていた時から変わっていません。

「自分も手を動かしたい」という気持ちもあるので、会社のWebサイトだけは北野さんが担当しているそう

--では、ご自身の強みは何だと思いますか。

[北野氏]私は高校生のときにプログラミングに出合い、その時から「新しいサービスを作って人々の生活を良くしたい」と思っていたので、プログラミングの技術だけでなく、デザインの知見や、SEOなどのマーケティング知識など、サービスを作るために必要な知識・技術を広く習得してきました。そのため、エンジニアとして仕事をしていた頃から、ジェネラリスト寄りであることは強みだと思っています。

今、経営者として何か判断するときにも、その知識や経験が生きています。エンジニアとは技術的な話ができますし、デザイナーの作業もある程度はイメージできるため、社員やパートナーからも安心して相談してもらえます。開発の意思決定をスピーディに行うことにも役立っています。

--幅広い知識や知見をお持ちの北野さんですが、エンジニアが大事にすべきことは何だと思いますか。

[北野氏]エンジニアは何かを「作る」ことが仕事です。ですが、指示されたもの、決まったものを淡々と作るのではなく、任された仕事の背景や目的―― 例えば、「この新機能はなぜ作るのか」、「この新機能でどんな課題を解決するのか」、「ユーザーはどうやって使うだろうか」といったところまで考えながら作っていくことが大事なのではないかと思います。

最初は難しいかもしれませんが、背景や目的を考えることを意識し続けていると「その目的に対してこの仕様は良くないのでは」という、疑問や改善案に気付けるようになります。つまり、単純に手を動かして作る人ではなく、課題を解決できる人になるのです。それはエンジニアの価値を高めることにつながります。

人々の課題は身近なところに。それをITの力で解決したい

--今後、どのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか。

[北野氏]当社は「はじまりをもっと近くに」というミッションを掲げています。日程調整は、何かの始まり、「きっかけ」になるアクションです。その「きっかけ」をより簡単に、分かりやすくして人々がつながる機会を増やすことで、より良い社会を作ることに貢献したいというのが当社の想いです。

世の中では、メタバースやWeb3.0など、最先端技術の話題が取り沙汰されています。最先端の技術もとても大事なのですが、一方で人々の課題はもっと身近なところにたくさんあると感じています。日程調整もその1つで、手間がかかると思いながらも従来の方法でやっていたのです。私は、そういう生活に身近な課題を、IT技術を活用して解決していきたいと思っています。

エンジニアで、ジェネラリストの経営者という今のポジションを、私は気に入っています。このポジションでサービスをプロデュースしながら、世の中の身近な課題をどんどん解決していけたら嬉しいです。

取材協力

ミクステンド株式会社


ライタープロフィール
杉本 恭子
幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。心理カウンセラー。


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