【東京モーターショー2019】電動化、自動運転化でステアリングも進化する――サプライヤ展示に見る自動車の近未来

トヨタのコンセプトカー「e-Palette」

2019年10月24日から開催されている「第46回東京モーターショー」では、各メーカーとも次世代モビリティを中心においた展示となっている。自動車業界はいま、100年に1度と言われる変革期を迎えているとされ、ドイツの自動車大手ダイムラーのディーター・ツェッチェCEOは、これを「CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)」というキーワードで表している。

今回の東京モーターショーでは、自動車メーカー各社の展示もこのCASEへの対応をアピールするものが多い。(執筆:後藤銀河)

スズキのコンセプトカー「HANARE」。パワートレーンはEVで、タイヤ部分に配置されるインホイールモーターにより、前後左右の自由な移動を実現する。

先にあげた2枚の写真はトヨタとスズキのコンセプトカーだが、いずれのモデルも車両に前後という概念がなく、居室空間を最大化するため、タイヤはボディの四隅にレイアウトされている。これは、EV化、自動運転化によってこそ実現できるデザインだと言えるだろう。

ただ、従来の自動車を見慣れた目には、タイヤは左右に切れるのか、従来の油圧回路はあるのか、などいろいろ疑問に思うところもある。内燃機関で動く自動車は、動力源がエンジン+トランスミッションの1カ所で、それをタイヤへと伝達するためにメカニカルなシャフトで連結する必要があった。ボディのデザインは、エンジンをどこに置くか、どのタイヤを回すのか、に大きく左右され、乗員のための空間はその制限の中で実現されていた。

EV化によって大きく変わるレイアウト

三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」のアンダーボディ。

三菱の現行PHEVを例に、現時点での最新のレイアウトを見てみたい。「アウトランダーPHEV」は4輪駆動のSUVだが、前後2基の独立した電気モーターを用いることで、前後輪の駆動力配分を制御するトランスファユニットと駆動力を前後車軸のディファレンシャルへと伝達するプロペラシャフトを無くしている。それによって生まれたスペースにリチウムイオン電池を配置する、という優れたレイアウトだ。フロア下にプロペラシャフトを通すためのトンネルが不要になるので、フロアをフラットにできるというメリットもある。

だが、先のコンセプトモデルのようなフロアを隅々まで居室として使うためのレイアウトを実現するためには、前後だけでなく、左右のタイヤを結ぶドライブシャフトやステアリング機構も、無くしてしまったほうが良い。今回のモーターショーには、そんな未来的なEVや自動運転車を可能にするサプライヤの展示が見られる。

「走る」「曲がる」「止まる」を1つのモジュールとして統合

ドイツのベアリングメーカー大手シェフラーは、90°操舵可能なインテリジェントコーナーモジュール「eCornerモジュール」と、それを組み込んだコンセプトカー「Schaeffler Mover(シェフラームーバー)」を展示する。

駆動、操舵、制動をすべて電子化するオールバイワイヤシステム「eCornerモジュール」。オレンジ色に塗られているのはモーターへの3相交流配線のはずだが、6本あるのはご愛嬌。

シェフラーが新開発した電動車向けモーターは、48~800Vの電圧クラス、15~300kWの出力をサポートする。ショーモデルの紹介によると、インホイールモーターの出力は13kW、ピークで25kW(355V時)と、小型モビリティであれば十分なものだ。このシステムを4輪に組み込むことで、4輪駆動と4輪ステアリングが可能になる。

コンセプトカー「Schaeffler Mover」。前後輪が逆位相で転舵しているのがわかる。ボディもメカニズムも前後対称に機能する。

eCornerモジュールは、モーターで直接操舵するため、機械的なリンクを使わず、可動域に機構的な制限が少ない。そのため切れ角が大きくとれ、ドライブモードで±45°、パーキングモードでは実に±90°の操舵が可能だという。モードによっては真横に移動することも可能だ。

サスペンションに組み込まれたステアリング機構部。強力なモーターとギアで操舵機構を実現している。

また、日本のベアリングメーカー大手の日本精工(NSK)も、EVならではのソリューションを提案している。

NSKの「クラスター・ローバー・モジュール・コンセプト」。トレーラーなどフラットなフロアを支えるのに適したデザイン。

NSKの「クラスター・ローバー・モジュール・コンセプト」も、自動走行車の「走る」「曲がる」「止まる」の機能を一つにまとめるというものだ。同社では、特にバスやトラック、トレーラーなど向けにダブルタイヤとするデザインで、このモジュールを必要な数だけボディや荷台に装着するだけで、自動走行車の駆動機能を備えることができる。

メカを置き換えるバイワイヤ技術、次はステアリングに

自動車の各機能は、機械的な制御から電子的な制御へと変わってきた。特に電動化、自動化によって、これまでは難しいと考えられてきたシステムでもバイワイヤ化が進みつつある。ここでは、現在のステアリングシステムをどのように進化させようとしているのかという視点で、ジェイテクトの展示を紹介したい。

ジェイテクトのステア・バイ・ワイヤ。中央上のステアリングコラムと下部のステアリングギアボックスの間にはメカニカルなシャフトがなく、完全なバイワイヤを実現する。

「走る」「曲がる」「止まる」といった重要機能の安全設計には、最終的にはメカで保証するという考え方がある。例えばパワーステアリングもABSも、電子制御が失陥すれば、普通のメカニカルシステムとして機能するように設計されている。日産がスカイラインに搭載しているステア・バイ・ワイヤ・システム「ダイレクト・アダプティブ・ステアリング」も、電子制御を3つのコントロールユニットで多重化したうえで、万一の失陥時にはクラッチによってステアリングシャフトがメカニカルに直結するシステムだ。そのため、ステアリング周りのレイアウトは従来と変わらず、バイワイヤ化のメリットである自由なレイアウトを実現するには至っていない。

バイ・ワイヤの信頼性保証に対するジェイテクトのアプローチのひとつは、ユニットに独立した予備電源を持たせるというものだ。新規に開発した小型リチウムイオンキャパシタをコントロールユニットのバックアップ用電源として搭載し、12V系の電源が喪失しても、機能を停止することなく、安全にフェイルセーフモードに移行させることができる。

このリチウムイオンキャパシタによるバックアップシステムは、既に実車への搭載が決まっているという。

さらにジェイテクトは、このステア・バイ・ワイヤが更に進化した将来的ソリューションとして、サスペンションとステアリングを統合した「左右独立型ステア・バイ・ワイヤ・システム」を展示している。

ジェイテクトの左右独立型ステア・バイ・ワイヤ・システム。メカニカルなリンク類を使わないため、操舵の自由度は大きくとれるが、ユニットに加わる負荷は高そうだ。

この左右独立型ステア・バイ・ワイヤ・システムでは、ストラットの上部にステアリング用にかなり大型のアクチュエータが設けられている。サスペンションのジオメトリも、次世代モビリティというより、現行のFR車のフロントサスペンションをイメージしているようだ。

自動車を設計製造するのは自動車メーカーだが、実際にシステムを設計し、提案する部品メーカーの展示にこそ、メーカーのコンセプトカーからは見えてこない、実際の車両に適用するための技術的な裏付けがあるように感じられる。

関連リンク

東京モーターショー 2019


ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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