材料中における熱伝導挙動を原子レベルで観察する

Steven Zylius / UCI、Chaitanya Gadre, Xingxu Yan, Xiaoqing Pan / UCI

カリフォルニア大学アーバイン校やMITなどの共同研究チームが、先端的な電子顕微鏡を用いて、熱を伝達する結晶格子振動フォノンの動的挙動を、原子レベルの解像度で観察する手法を開発した。単一波長の電子線を用いた高分解能透過電子顕微鏡を用いて、局所的なフォノンによる散乱に起因する電子エネルギー損失を測定して、フォノンの運動を原子レベルの解像度でマッピングすることができる。ナノスケールまで微細化される電子デバイスや熱電素子などの伝熱制御やデバイス設計に活用できると期待されている。研究成果は、2022年6月8日に『Nature』誌で公開されている。

固体材料において熱源から熱が拡散する際、結晶中の原子が平衡位置から変位する振動エネルギーが増大した波動(フォノン)として伝搬する。近年、地球温暖化対策のひとつとして、廃熱を電気に変換できる熱電技術が注目されている。熱電素子では、電荷の流れを促進する一方、熱伝導を抑制することが重要であり、合金化および格子欠陥や界面などのナノ構造導入などによる熱伝導抑制が模索されている。

そのため、合金化やナノ構造化された結晶中を、熱がどのように伝播するか原子レベルで把握する必要がある。これまでフォノンの動的挙動を検出する手法としては、紫外線や可視光線がフォノンによって散乱される現象を利用したラマン分光法などが用いられてきたが、可視光の波長よりもはるかに短い、ナノメートルレベルで微細化される電子デバイスなどの解析に対しては、分解能という点で限界がある。

研究チームは、最先端の高分解能透過電子顕微鏡を用い、単一波長の電子線がフォノンによって散乱され、それによって透過電子線などのエネルギーが損失する現象を利用する「電子エネルギー損失分光(EELS)」を活用して、局所的なフォノンの運動を原子レベルの解像度で観察することにチャレンジした。

SiとGeの合金を用いた単一量子ドット(電子などが量子化されて閉じ込められている数10nmの領域)を構築し、量子ドット内の不規則状態や、量子ドットと周囲Si基盤の間の界面、量子ドットのナノ構造自体のドーム形状表面周辺において、フォノンがどのように挙動するかを観察した。その結果、Si原子の原子半径がGe原子よりも小さいため、量子ドット内でSi原子は引張の歪みを受け、この歪みによってフォノンが弱められること、各フォノンが伝達する熱が小さくなり、熱伝導率が低減することを明らかにした。

また、開発した解析手法により、フォノンがどちらの方向により多く移動するかが判り、材料中の熱伝達の方向をマッピングするとともに、フォノンの界面による反射をマッピングすることができることなどが判った。研究チームは、この技術が熱電素子などの伝熱制御およびデバイス設計に活用でき、注目されている廃熱発電技術など環境発電の発展に貢献できると考えている。

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UCI scientists observe effects of heat in materials with atomic resolution

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