アルツハイマー病を無症状段階で検知する免疫赤外センサー――血液からアミロイドβのミスフォールディングを検出して早期発見

独ルール大学ボーフムは、免疫赤外(immuno-infrared)センサーによってタンパク質バイオマーカーであるアミロイドβのミスフォールディングを血液中から検出し、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)濃度と併用すると、最初の臨床症状が現れるより最大で17年前にアルツハイマー病を検知できる可能性があると発表した。この研究は同大学がドイツがん研究センターなどと共同で行ったもので、その詳細は2022年7月19日付で『Alzheimer’s & Dementia』に掲載された。

認知症疾患であるアルツハイマー病は、最初の臨床症状が現れるまでの15〜20年間は無症状で経過するといわれている。タンパク質が折り畳まれる過程で特定の立体構造にならず、生体内で正しく機能しなくなる状態をミスフォールディングというが、アルツハイマー病は、このミスフォールディングを起こしたアミロイドβが凝集(重合)して、大脳皮質でいわゆる「老人斑」と呼ばれる特徴的な沈着を起こすことが原因と考えられている。

研究チームは、ドイツのザールラント州で実施している前向きコホート研究「ESTHER」の参加者から提供された血液サンプルの血漿を分析し、潜在的なアルツハイマー病のバイオマーカーを探った。脳内でアミロイドβの沈着が形成される前に、簡単な血液検査でアルツハイマー型認知症の発症リスクを判定して治療を始められるようにすることが目標だ。

血液サンプルは2000年から2002年にかけて採取され、分析時まで凍結保存されていた。採取当時、参加者の年齢は50〜75歳で、まだアルツハイマー病と診断されてはいなかった。今回の研究では、参加者の中から17年にわたる追跡調査の間にアルツハイマー病と診断された68人を選び、アルツハイマー病と診断されていない240人の対照群と比較した。研究チームは、血液サンプルにアルツハイマー病の兆候が既に見られるかどうかを調べることを目指した。

免疫赤外センサーは、特定のタンパク質の濃度を測定するのではなく、疾患特異的な抗体を用いてタンパク質のミスフォールディングを検出する。このセンサーは、血液サンプル採取後にアルツハイマー病を発症した被験者68人を高い検査精度で識別でき、AUC(Area Under the ROC Curve)は0.78だった。AUCとは、検査や診断薬の性能を表すROC曲線より下にある領域の面積のことで、値が1に近いほど判別能が高いことを示し、判別能がランダムの時は0.5となる。

また、非常に特異的なタンパク質であるGFAPの濃度は、免疫赤外センサーよりも精度がはるかに低いにもかかわらず、臨床期の最大17年前までアルツハイマー病の徴候を示せることが分かった。アミロイドβのミスフォールディングとGFAP濃度を併用することで、研究者らは無症状段階での検査精度をさらに高め、AUCを0.83まで上げることができた。

アルツハイマー病以外でも、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、神経変性疾患の多くで、タンパク質のミスフォールディングが病態形成において主要な役割を果たしていると考えられている。免疫赤外センサーは、ALSを引き起こす原因タンパク質の1つであるTDP-43のような他のミスフォールディングタンパク質の検出にも原理的には利用できるため、その応用が期待される。

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