- 2022-10-5
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- FAST(Flexible Autonomous Sensor measuring Tumors), Science Advance, がん治療, ウェアラブルデバイス, スクリーニングプロセス, スタンフォード大学, 学術, 腫瘍, 非侵襲的
スタンフォード大学を中心とする研究チームは、皮下の腫瘍の大きさをリアルタイムで測定する非侵襲的なウェアラブルデバイスを開発した。FAST(Flexible Autonomous Sensor measuring Tumors)と名付けられたこの画期的なデバイスは、伸縮性と柔軟性を備えたバッテリー駆動式歪みセンサーを活用しており、スマートフォンでデータを確認できる。現在は、動物モデルでの試験が行われているが、研究チームはヒトへの応用も視野に入れている。研究成果は、『Science Advance』誌に2022年9月16日付で公開されている。
新規抗がん剤候補は、マウスの皮下にある腫瘍が薬物で退縮するかによってスクリーニングされる。現在、腫瘍の進行や退縮を判断するには、画像による測定や腫瘍を取り出して実測しなければならず、多くの時間や労力がかかる。これまでは測定結果を得るまでに、数週間から数カ月待たなければならなかった。
FASTは、弾性ポリマーの基板上に金薄膜の回路を配置したセンサーと、小さな電子バックパックで構成されている。柔軟なセンサーは伸縮自在で、腫瘍の進行に応じて伸びたり縮んだりする。センサーが伸びると、金の層に亀裂が入りセンサーを通る電子の経路が長くなるため、センサーの抵抗が増大する。腫瘍が退縮すると、亀裂は再び接触して、通電性が改善される。つまり腫瘍サイズの変化が電気伝導度の変化として測定できるわけだ。
研究チームは、FASTには従来法にはない3つの利点があると述べている。1つめは、センサーは継続してマウスに取り付けられているため、試験期間中、連続してデータを取得できる。2つめは、柔軟なセンサーが腫瘍を包み込んで測定するため、他の方法では識別困難な形状変化を測定できる。最後に、自律的かつ非侵襲的な手法だという点だ。
センサーは絆創膏のように皮膚に貼り付けて、電池で駆動させ、データはワイヤレスで送信するため、マウスは試験期間中も自由に動き回ることができ、一度FASTを取り付けてしまえば研究者はマウスに特別な手をかける必要がない。取り付けは数分で完了し、費用はわずか60ドル程度だ。
FASTを開発する上での課題の1つは、センサーの重量が腫瘍を圧迫することにより、腫瘍の大きさを正しく測定できないことへの危惧だった。研究チームは、材料の機械的特性を皮膚に適合させ、皮膚のようにしなやかで柔軟なセンサーを作ることで、この課題を克服した。
研究チームは、皮下に腫瘍を移植したマウスを用いて、実際にFASTが10nmの感度で腫瘍のサイズ変化を評価できることを確認している。この全く新しい腫瘍の分析技術は、がん治療法のスクリーニングプロセスを大幅に迅速化し、より正確な検証を可能にするかもしれない。